これまでオートメーションによる失業を免れてきたオフィスワーカーも、人工知能(AI)やロボットに取って代わられることに備えるべきだ――。世界有数の投資銀行であるUBSはこう述べている。今後、AIを利用したテクノロジによって、世界的な貧富の差が拡大していくという。
UBSが発表したレポートでは、近未来のテクノロジが労働市場に与える影響について分析しており、自分の仕事が自動化されることに「これまで危険を感じてこなかった」「中程度のスキル」を持つ労働者は、「最大の混乱」を経験することを覚悟すべきだと記述されている。
「Baxter」は、製造現場でさまざまな繰り返し作業ができるロボットだ。
提供:Rethink Robotics
レポートの執筆者は、ユビキタスな接続性やビッグデータアナリティクス、機械学習をはじめとするAI分野の前進などによって実現する進歩について、「自動化はまず事務作業、営業、顧客サービス、サポート業務に影響を与える」と述べている。
「ロボットによるプロセスの自動化、自動レポート、バーチャルアシスタントなどが普及する」(同レポート)
UBSが今後完全に自動化されると予想している管理的業務には、少額の保険金請求の処理、簡単な財務的アドバイス、法律関連の調査などがある。またレポートでは、工場の組み立てラインに、位置が固定されている既存の産業ロボットに加えて移動可能なロボットが導入され、「低スキルの人間の労働者に比べて高い生産性」が実現すると、工場労働者の需要も小さくなるとしている。
レポートには、「低スキルから中程度のスキルの労働者の失業率は、スキルを再習得させるための多くの条件を満たせない限り、近い将来上昇する可能性がある」とある。
世界経済フォーラムは、本レポートの発表前に、管理的業務の労働者の数は、2020年までに世界の先進諸国と発展途上国をあわせて480万人近く縮小するとの予測を発表している。この予測では、製造業で160万人の職が失われるとも述べられており、自動化によって最も影響を受けるのは定型的な労働だというUBSの予測と符合している。
「所得格差の拡大」
このレポートは全体的に暗いトーンで占められているが、必ずしもいわゆる「第4次産業革命」が「全体としての世界的な失業率上昇」に繋がると予想しているわけではなく、技術的な進歩は、現在の労働者の生産性を向上させ、新たな仕事の需要を生み出す可能性があるとしている。
ただし、仮に全体としての仕事の数が減らなかったとしても、第4次産業革命のメリットを享受する人と、職を失う人が同じであるとは限らないという。
個人レベルでは、「高度なスキル」を持つ個人向けの新たな仕事が多く生まれると予想されている。世界経済フォーラムは、そのような個人を、コンピュータ、数学、建築、工学の分野の素養を持つ人材であるとしているが、「低スキル」または事務職に就いている労働者に当てはまる人は少ない。
「自動化は低スキル人材の給与をさらに低くする圧力となり、中程度スキルの職務を求める求職者に対しても影響を与え始めている。これとは対照的に、高度なスキルを持ち、適応力の高い労働者に対する潜在的なメリットは増えている」
雇用主と企業経営者も、投資により人件費を削減できるため、メリットを享受する側だと言える。