3月5日より、PM2.5の灰色の空の下、全人代(全国人民代表大会。中国では中国人民政治協商会議とセットで「両会」と呼ばれる)が開催された。各ポータルサイトは、足並みをそろえ、全人代の最新ニュースをトップに掲載した。それによると、インターネット関連では、コンテンツ・ソフト産業の強化や、ネット金融の管理、ネットワーク(網絡)安全法の制定、インターネット上でのより強固な治安維持などが討論されているそうだ。一方で、反政府系中国語サイトには、報道機関で話題にしてはいけないリストらしいものも出回っている。
中国に住む外国人には大変困った話だが、全人代に合わせてネット管理が強化された。この連載で何回か書いたように、多くの中国のネットユーザーはネット管理が強化されても困らない。また、全人代でのネット管理強化は、全てが秘密のベールに隠されているわけでもない。たとえば新華社は、3月4日、湖北省武漢市の湖北電信(中国電信の湖北支社といったところ)が、人員を強化したり、機器をメンテナンスし、全人代を前に準備を整えていることを報道している。
もちろん、中国国内で報道されないニュースもある。サウスチャイナモーニングポストは3月9日付で、全人代期間中、様々なVPNサービスでサイバー万里の長城(Great Firewall:GFW)の壁越えがうまくできず、繋がったとしてもすぐ切れる状態になったと報じた。報道によれば、VPNサービスを提供するAstrillなどをはじめとしたVPNが、3月3日より利用不可に。Astrillは、ツイッター上で「北京の政治情勢(全人代期間中)により、壁越えは厳しい。解決を辛抱強く待ってほしい」とコメント。Cloud Ark VPNやExpressVPNなども同様のコメントを出したほか、日本人向けに提供されている複数のVPNサービスでも、「中国での規制が強化されていて、非常につながりにくくなっている」と会員に通達していた。当局がネット検閲に本腰を入れると、いくつものVPNサービスが使えなくなるらしい。
完全にアクセスが絶たれているわけではない。例えば中国で働く日本人が、繋がりにくい状況ながらも、Facebookやtwitterで中国からつぶやいていた。またネット規制の強化にめげず、それでもネット接続を続けようとする中国産のVPNプロバイダーもある。しかし、ネット規制が体感でわかるほど強化され、壁越えも面倒になる。
2015年よりVPNプロバイダーは中国政府への登録が必要となったと、中国メディアの「環球日報」が当時報じている。ライセンスがなく、国家に危害を与えかねないという理由で、未登録のプロバイダーは合法的にブロックできるわけだ。
その前からも、中国にとっては厄介であろうサービスが使えなくなったり、外国のサービスがブロックされたりしている。
たとえば2006年には、中国の左派系サイトが全人代のタイミングで閉鎖。2011年には、グーグルの一部機能やFacebookによく似たSNS「人人網」の一部機能が使えなくなった。昔から、「全人代」をはじめとした大政治イベント(それに中国共産党全国代表大会もそうだ)の時期における、外国サイトへのインターネット接続環境の改悪はよくあることで、面倒な時期であり覚悟すべき時期なのだ。
- 山谷剛史(やまやたけし)
- フリーランスライター
- 2002年より中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、アセアンのITや消費トレンドをIT系メディア・経済系メディア・トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014 」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち 」など。