モバイルとクラウドでフィールド業務を効率化する袖ケ浦火力発電所の狙い - (page 2)

大河原克行

2016-04-28 08:00

 従来は、事務所に戻ってから、前日のデータと比較して数値の転記ミスに気が付き、もう一度現場に戻って確認するという作業もあったという。発電所という広大な敷地だけに、現場に戻る労力や時間のロスは大きかった。だが、電子化してからはそうしたミスがなくなり、導入後は現場に戻って再確認するという作業は現在までゼロだという。

 運用を開始して以降、Skypeの機能を使って、音声で対話できる環境を新たに追加するなどの改善を現場の声をもとに進めている。

 紙での作業からの移行に伴い、当初は使いにくさなどを指摘する声もあったというが、現時点では効率性と正確性に高い評価が集まり、不満の声はないという。

業務効率化で小売全面自由化に打ち勝つ

 今回の電子化は、火力部火力運営グループが主導権を握って進めたものだ。

 海口氏は「机上業務が多く、もっと現場を回る時間に活用したいという声が検査業務を担っている協力会社から上がっていた。電力小売全面自由化の中で競争に打ち勝つには、発電所の中の業務をもっと効率化していく必要もあった。その一方で、情報システム部門では大規模なシステム開発に追われており、なかなか現場の実態が伝わらない部分もあった」と背景を語ってくれた。

 「火力運営グループは、火力発電所に近いところで仕事をしている組織。情報システム部門を現場で連れていき、現場の実態を見てもらい、協力を得ながら、課題の解決に取り組んだ。そして、今回の取り組みでは、自分たちの仕事をOffice 365という汎用的なアプリにあわせてどこまで効率化できるのかということへの挑戦でもあった」(海口氏)

 電力小売全面自由化で、これまで以上に競争力が求められる東京電力フュエル&パワーにとって、現場主導での迅速なICT活用は不可欠と言える。今回の取り組みは、それを示す好例だと言っていい。

東京電力フュエル&パワー 袖ケ浦火力発電所
東京電力フュエル&パワー 袖ケ浦火力発電所
東京電力フュエル&パワー 袖ケ浦火力発電所第1号機の火力発電設備
第1号機の火力発電設備

敷地面積は東京ドーム24個分

 袖ケ浦火力発電所は、敷地面積が東京ドーム24個分にあたる112万m2を誇り、東京ガスとの共同運用基地となっているのが特徴だ。

 第1号機が稼働したのは1974年8月と、国内で2番目に営業運転を開始したLNG専焼火力発電所。東京ガスを含めて、地上式9基、地下式26基の合計35基の貯蓄タンクを持っており、総タンク容量は266万kL。タンク容量ベースでは世界第2位の規模を誇る。35基のうち東京電力フュエル&パワーが15基を所有。東京ガスとの共有は3基となっている。

 小川氏は、「ひとつの施設を2社で共有することで運用の効率化を図ることができる。2014年度にはブネルイ、マレーシア、サハリン、オートスラリアなどから、226隻によりLNGを輸入。年間1195万トンのうち、東京電力の使用量は597万トンと約半分を占める」という。

 1974年8月稼働の1号機は60万kW、75年9月稼働の2号機は100万kW、77年2月稼働の3号機は100万kW、79年8月稼働の4号機は100万kWの出力を持ち、総出力は360万kWに達する。

 いずれも蒸気の膨張力を利用した発電方式。ボイラー内の燃料を燃焼し、発生した高温、高圧の蒸気を蒸気タービンで駆動して発電する。

 「袖ケ浦火力発電所は、東芝、日立、三菱の国内重電大手3社の100万kW機の初号機をいずれも採用している。だが、40年前後の稼働実績を持つため、発電効率は最新鋭機に比べると劣る。ベースロードの発電ではなく、調整発電を担うことになる拠点」(小川氏)

 袖ケ浦火力発電所のLNG受入基地で貯蔵されたLNGは、基地で液体から気化され、導管を通じて近隣の姉ヶ崎火力発電所などにも届けられることになる。季節や時間帯によって刻々と変動する電力需要にあわせて、発電所へ供給するガス量を調整するという役割も担っているという。

災害時に稼働する海水消火ポンプの試験の様子。3カ月に一度試験する
災害時に稼働する海水消火ポンプの試験の様子。3カ月に一度試験する

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