Disney氏も完璧主義者だった。1937年に公開された不朽の名作「白雪姫」は、彼が完璧な映像を追求した結果、完成までに3年を費やし、制作中は幾度となく予算不足の危機に陥った。Disney氏は、Bank of Americaをなだめすかして追加投資を引き出す役割をRoy Disney氏に押し付けたが、最終的には自宅を抵当に入れるまでに追い詰められた。しかし、史上初の本格的な長編アニメーション映画となった「白雪姫」は、完璧な作品となって世に送り出された。同作の驚異的な映像美は、現代のアニメーションと比べてもまったく見劣りしない。
Jobs氏とDisney氏の製品に対する妥協なき完璧主義は、両社の製品を象徴するアイデンティティとして結実し、膨大な数の消費者を魅了した。その完璧主義は、消費者のロイヤルティをカルト的なレベルにまで押し上げた。同時に、その完璧主義は真似るのが極めて困難だったため、競合他社の参入を阻む障壁としても機能した。
Jobs氏でもDisney氏でもないわれわれが、完璧主義を貫いた彼らの成功事例から学ぶのは、簡単なことではない。完璧主義は高い代償を伴い、達成するのも困難である。通常であれば、完璧なロゴや映像美を追い求めるために会社や自宅を抵当に入れるとなれば、相当な熟慮が必要だ。
自分の夢に強い信念を抱いているのであれば、そのリスクを冒す価値があるかもしれないが、その場合は何が何でも成果を出す必要があるだろう。
4)時代を先取りする技術への先行投資を、強力な差別化要因につなげる
Jobs氏は製品を差別化するため、最先端技術を消費者レベルの製品に落とし込むという手法をよく用いた。Wi-Fi技術の開発は1988年頃に始まっていたが、本格的な普及の口火を切ったのは、Wi-Fiを搭載したApple製のクラムシェル型ラップトップ、「iBook」だった。
それまでのラップトップは、ネットワーク接続にケーブルが必須だという大きな制約に縛られていた。Appleはこの制約からラップトップを解放するためにWi-Fiを採用したのだ(ちなみに当時のAppleは、「Wi-Fi」や「802.11」という用語を使わず、「AirPort」と呼んでいた)。
今日、Wi-Fiは特に珍しい機能ではなくなったが、1999年当時は、ACアダプタもネットワークケーブルも接続しない状態で自由に持ち運べたiBookは、消費者に驚異的な開放感を与えた。iBookは、実際には設計上の制約を幾つか抱えていたのだが、Wi-Fiの搭載は極めて強力なセールスポイントとなった。
Disney氏はウサギのキャラクター「オズワルド」で、ある程度の成功を収めた。しかし彼はオズワルドの知的所有権(IP)を所有していなかったため、Winkler PicturesのCharles Mintz氏に事実上の敵対的買収とも言える行為を許す結果となった。Mintz氏はDisneyに所属していたアニメーターの多くを引き抜いたのだ。