5月16日、米国カリフォルニア州サンノゼで、クラウドERPベンダーである米NetSuiteの年次カンファレンスイベント「SuiteWorld 16」が開幕した。日本ではまだ認知度が高いとは言えないNetSuiteだが、このイベントは年々拡大しており、今回は8000人程が基調講演に参加、ウェブからも1000人以上が視聴する規模に成長している。
NetSuiteのCEOであるZach Nelson氏は、「創業当初は、ネット経由でERPのシステムを提供することなど誰からも理解されませんでした。それが今では右肩上がりでビジネスが成長しています」と言う。企業の本社、支社など世界で、今や3万を超える組織が同社のクラウドを利用している。同社社員も5000人規模になり、売上げも2015年度には7億ドルを超えていよいよ10億ドルを目指すところまできた。会計ERPアプリケーションの市場シェアで見ると、2014年に8位だったものが2015年には6位に上昇している。
このシェアで15位までに入っている他ベンダーは、オンプレミスのビジネスも併せての結果だ。対して同社は、純粋にクラウドだけのビジネスだ。「クラウドERPベンダーではトップのベンダーです」とNelson氏は自信を見せる。
特に、NetSuiteのビジネス成長率は高く45%もある。対してMicrosoftが10.6%、OracleやInforも数%の成長率しかない。Nelson氏がERPベンダーの競合としてたびたび取り上げるSAPに至っては、クラウドERPには参入したばかりであり残念ながら会計ERPの領域では12%のマイナス成長だと指摘する。
NetSuiteは会計のアプリケーションで強さを見せているが、もともと会計システムを作ろうとしたわけではないとNelson氏は言う。企業経営を行うための1つのシステムを提供しようとした結果、会計に強いERPができたのだと。なので、他の会計のアプリケーションとはアーキテクチャが異なっている。
強みはビジネスのトランザクションを統合したプラットフォーム
NetSuiteのCEOであるZach Nelson氏
他の会計アプリケーションでは、既存の会計の仕組みである総勘定元帳を作るプロセスをコンピュータ化したものがほとんどだ。一方で同社の会計アプリケーションは、ビジネスで発生するトランザクションを1カ所に集めるシステムになっている。「重要なのは元帳ではなくトランザクションです」とNelson氏。ここで言うトランザクションとは、ビジネスで発生するトランザクションのことだ。ウェブサイトへのアクセスのようなトランザクションではない。
なぜトランザクションが大事なのか。多くの企業において、さまざまなビジネスシーンでExcelを使って処理をすることがある。「簡単だからExcelを使ってしまいます。とはいえ、日々それぞれを適切に更新しなければなりません。NetSuiteを使えば、そんな面倒なことはありません」とNelson氏が強調するように、NetSuiteを使えばすべてのビジネストランザクションが1つに集まるので、個々のExcelを更新するような手間は発生しない。
またNetSuiteでは、クラウドだけでERPを提供している。後からクラウドに載せたのではなく、最初からクラウドで提供する仕組みを作っている。ここも他とは異なるアプローチだ。クラウドで提供することで、アプリケーションをオープンなものにしたとNelson氏。かつてのERPはアクセスすることを制限するシステムだった。特定の人が特定のアプリケーションでしか触れなかったが、NetSuiteはウェブブラウザだけで誰でもどこからでもアクセスできるようにした。さらに会社の中だけに閉じるのではなく、パートナーや顧客も必要なものにはアクセスできるようにできることは、クラウドの大きなメリットだと強調する。
「いつでもどこからでも見えるようにする。これが最後のコンピュータアーキテクチャであり、さらには最後のビジネスアーキテクチャでもあるでしょう」(Nelson氏)
もう1つ大きな特長が、カスタマイズが可能な点だ。一般的に、会計のERPシステムはカスタマイズが難しいが、NetSuiteはカスタマイズできるようにしている。カスタマイズが行われてもアップグレードは可能であり、ここがNetSuiteの優位性でもある。「大企業も中小企業も、同じコードベースの上で顧客ごとに違うものが動いています。カスタム化できることが、ネットスイートの大きな優位性です」(Nelson氏)。顧客自身でカスタマイズができ、さらにNetSuiteのプラットフォームの上には、ISVなどが開発した400以上の独自アプリケーション「SuiteApp」がある。