(前編から続く)
2015年度を最終年度とする7年間の長期ビジョン「SE15」は、セイコーエプソンの経営体質を強固なものとした。
その一方で、いくつかの反省があったという。
そのひとつが、商業・産業用途向け製品でメディアの使い勝手や信頼性、堅牢性などで納得できる製品ができなかったという点だ。

セイコーエプソン 代表取締役社長 碓井稔氏
代表取締役社長の碓井稔氏は、「インクジェット技術を活用した商業・産業分野向けプリンタは投入したが、まだ改善が必要。その分野の知見の蓄積が足りなかったり、組織そのものをもっと強化したりする必要がある。私の目論見よりは約2年遅れている」とする。だが、「これも次につなげることができる道筋が見えてきた」と手応えに自信を見せる。
2つめは、こうした製品の遅れによって、それらの市場に向けた販売、サービス基盤が十分に作れていない点だ。ここでは、オフィス向け製品の販売とサービスルートの確立ということも含まれる。これも2016年度からスタートする新たな中期経営計画「Epson 25 第1期中期経営計画」の中で実行されることになる。
そして3つめが、ウェアラブル分野で要素開発の遅れ、ソフトウェアの開発に遅れが生じたこと。他社を追いかけるのではなく、自らの強みを生かすことができるものを考えていきたいという。
2025年を目指した長期ビジョン「Epson 25」は、こうしたSE15での成果と反省を踏まえながら、策定されたものだといっていい。
碓井氏は、「『省・小・精の価値で、人やモノと情報がつながる新しい時代を創造する』というビジョンステートメントを定めたEpson 25は、SE15でやってきたことを踏襲したものである」と前置きし、「若い社員たちを中心にした約30人のメンバーが現場を回って、エプソンの強みを客観的な立場から理解し、新たな価値を作るところにリソースを集中する内容とした。そのベースにあるのは、世の中の流れをよく見て、自分たちの強みを認識して、それで社会に貢献していくという姿勢」だとする。まさに基本的考え方はSE15と同じである。
そして、エプソンが提供する価値は「スマート」「環境」「パフォーマンス」であると位置付けた。
「現在、約73億人の世界人口は、2025年には約81億人と10年間で8億人も増加する。また、グローバルな経済成長により、エマージング地域を中心に中間所得層が増大すると言われている。この人口増加と生活の質向上への欲求の高まりにより、自然環境への負荷は増加すると考えられる」
「そして、今の社会全体を大きく動かしている情報通信技術の進化は加速し、コミュニケーションやさまざまな分野の効率化などに大幅な改善をもたらす。その結果、産業から個人に至るまで大きな変革が起こると予測される。これらのメガトレンドを分析した結果、多くのキーワードが挙げられたが、その中でエプソンが提供可能な価値は、スマート化と環境、パフォーマンスであると考えた」
「スマート化」では、接続性、ユーザビリティ、信頼性を軸にいつでもどこでも簡単、便利で安心して製品を使える世界を作り、社会の効率化やサービスの向上、煩わしさの解消を推進するものと位置付ける。また、「環境」については、省エネルギー、プロセス変革、最適化によって、持続的な発展環境負荷を低減し、改善する価値を提供することで世の中に貢献できるとした。そして、「パフォーマンス」では、生産性、正確さ、創造性をベースにより高い、新たな価値を創造していくとした。
そして、こうした価値の提供とともにもうひとつ碓井氏が強調したのが「リアル世界で実体のある、究極のものづくり企業」を目指すということだ。