クラウドへの移行はいつでも始められる:米AWSのAriel Kelman氏

阿久津良和 2016年06月22日 07時30分

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 アマゾンウェブサービスジャパンは6月1日から3日間、都内でAmazon Web Services(AWS)の最新技術や導入事例、活用方法などを紹介するカンファレンス「AWS Summit Tokyo 2016」を開催した。本稿ではエグゼクティブトラックで、米Amazon Web Services VP Worldwide Marketing Ariel Kelman氏が語った内容を紹介する。

 Kelman氏はトランスフォーメーションの一例として、自社のHead of Enterprise Strategyを務めるStephen Orban氏の経歴を紹介した。Orban氏は2008年にBloombergのIT部門でコスト削減やアジャイル性を社内で達成するため、プライベートクラウドを構築。だが、コスト削減は成功したものの製品部門はオンプレミスサーバ時代よりも機能面で劣るSaaSに不満を訴えたという。「IT部門は機能を拡張し、提供を行うのが使命だが、実現には時間がかかる」(Kelman氏)


Amazon Web Services VP Worldwide Marketing Ariel Kelman氏

 2012年にDow JonesのCIOへ就任したOrban氏は、過去の経験から俊敏性を実現するためにAWSを採用して、クラウドプラットフォームを構築したという。その結果、製品部門は作業効率が向上し、業務の50%をクラウド化した。それまでのDow Jonesは、社員の7割がオンプレミスサーバの運用を担当し、3割は新製品開発に割り当てていたが、AWSを導入した結果、そのバランスは逆転。7割の人材を製品開発に割り当てたことで他社との差別化が可能になり、ライバル企業に打ち勝てるようになったと、クラウド導入によるメリットに話をつなげた。

 Kelman氏はAWSを導入するメリットとして、「より多くのリソースを使える」「より早く」「よりセキュアに」というキーワードを掲げつつ、既存のIT環境を次のように説明している。従来はオンプレミスサーバによる基盤の上に製品&サービス部門、バックオフィスシステム部門、エンドユーザーコンピューティング部門のシステムが乗り、全体をセキュリティ部門が管理する体制だった。だが、クラウドファースト時代はこれらすべてが1つに集約される“CoE(Center of Excellence:部門を横断した専門部隊) + DevOps”や、前述の各部門が並列になるビジョンが実現可能になる。「バックオフィスシステムやエンドユーザーコンピューティング部門はSaaSに移行し、IT部門全体が変わる」とKelman氏は言う。その結果として企業が30%の成長率を得ることができると強調した。

クラウド組織への移行の4ステップとは

 Kelman氏は、クラウド組織への移行には4段階のプロセスがあると説明する。

 1つ目は「プロジェクトの選択」。Kelman氏は多くの顧客から「すべてをクラウドに移行できるか知りたい」と問われることが多いと述べつつ、「成功する顧客はまずプロジェクトの選定を始める」と断言。ここで重要なのはウェブアプリケーションなど低リスクかつ高利益を得やすい分野から取りかかり、クラウド化の実証と成功事例をIT部門が持つことだと説明する。

 2つ目は「基盤」。クラウド化プロジェクトの数が増えていく段階で企業の方向性を決め、開発が容易になるクラウドプラットフォームに着手すべきだという。企業によって異なるセキュリティポリシーやコンプライアンス要件から導き出した最適な実践を行い、オンプレミスサーバとの統合を進めていくと、CoEによって企業内の意識が変化していくとKelman氏は説明する。

 3つ目は「移行」。企業によっては何十万というアプリケーションをSaaS化する際の分岐点となるが、ここでAWSを選択することで「充実した移行のサポートが得られる」(Kelman氏)と自社サービスをアピールした。

 そして4つ目は「最適化」。アプリケーションあたりのコストや開発工数を指標に最適化を行うことで、ネイティブクラウド企業に移行できるという。クラウド化プロジェクトを始めるタイミングは、「ハードウェアのリフレッシュや既存のシステムが遅すぎるといった理由で、どのタイミングから始めてもよい」(Kelman氏)。各企業のスタイルや状況に合わせて好機を選ぶのが賢い方法だろう。

 CoE構築については、新たに人材を増やすのではなく、多様な専門知識を持つチームを設立するのが望ましい。基本的な事項からスタートし、チームの責任範囲を拡大して、自動化やユーザーフレンドリーを目標に置くとよいとKelman氏。ここでは「実行するものは自ら作るというDevOps的アプローチが大事」(Kelman氏)だという。

 さらにクラウドCoEに必要な共通の目的として、「ハイブリッドアーキテクチャ」「リファレンスアーキテクチャ」「ID管理」「コストとアカウント管理」「アセット管理」を意識させる。CoEの成長と企業のクラウド移行が進むにつれて、レガシーITへの依存が減少するとした。


AWSによるネイティブクラウド企業化への導入事例

 AWSではレガシーITからネイティブクラウドへの移行支援として、物理的なストレージを利用して大規模なデータ移行を実現するAWS Snowballや、シャットダウンせずにデータベースのロケーションを変更するAWS Database Migration Service、VMwareの仮想マシンをAWSにインポートするVM Import/Exportなどのサービスを用意している。

 AWS Database Migration Serviceについては「データベースタイプの変更も可能なため、Oracleデータベースから脱却して、メンテナンス費用やコストを削減し、オープンなデータベースに移行する企業も少なくない」(Kelman氏)とアピールした。

 最後にKelman氏は顧客企業の1つ、info CEO Charles Phillips氏の「友人であれば、新たにデータセンターをタテするようなことはしない」、GE CIO Jim Fowler氏の「AWSは次の140年、会社を運営していくための信頼できるパートナーだ」と2つの言葉を引用して、スピーチを終えた。

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