2016年7月、Microsoftは同社の年次イベント「Worldwide Partner Conference」でいくつかの新しい取り組みを明らかにした。これには、同社とパートナーがデジタル変革を通じて実業界からどのように収益を上げるかという計画も含まれていた。その中で行われたある発表は、Forbes Magazineやその他の媒体が大きく報じなければ、あまり人目を引かずに終わったかも知れない。
Windows 10 Enterprise E3
2016年7月12日、Yusuf Mehdi氏はMicrosoft Windowsブログで、「Windows 10 Enterprise E3」を、「クラウドソリューションプロバイダ」チャネルを通じて企業に提供する予定だと発表した。このバージョンのWindows 10は、エンタープライズ水準のセキュリティと管理機能を備え、価格は1シートあたり月額7ドルに設定されている。
報道のヘッドラインとは裏腹に、MicrosoftがWindowsを月額課金サービスとして提供するのはこれが初めてではない。だが、今回の発表で注目すべきは「クラウドソリューションプロバイダチャネルを通じて」提供するという部分だろう。このバージョンのWindows 10は、マネージドサービスを必要とする企業向けに設計されており、特に専用のITリソースや専任のITスタッフを持たない企業に向けたものになっている。
このため、今回の発表の影響が及ぶのは、Windows 10ユーザー全体のうち限られた範囲にとどまる。大半の企業と、ほぼすべての一般消費者には、ほとんど影響がない。
将来的な影響
Forbesやその他いくつかの記事では、この発表を、Microsoftに近い将来にすべてのバージョンのWindowsに対してサブスクリプション料金を課す何らかの計画があることを示唆するものだと捉えている。しかし、この評価はややセンセーショナルすぎるし、若干時期尚早かもしれない。
Satya Nadella氏はWPCで行った基調講演で、あらゆる企業が経験しつつあるデジタル変革と、変革による移行で企業内のトランザクションがどう変わるかを語った。このような劇的な変化の過程にある実業界が、OSの価格体系の変更といった煩わしさを受け入れるはずがない。Microsoftはこのことを理解している。
その一方で、ITインフラを持たない小規模な企業に対して、Windows 10と管理サービスをサブスクリプション形式で提供することは、極めて理に適っている。認証を受けたサードパーティのクラウドソリューションプロバイダが間に入って面倒を見ることで、多くの企業に支持されるサービスになる可能性もある。
Microsoftには、世間をだまし討ちにして、サブスクリプション料金を巻き上げようという邪悪な計画はないと、筆者は信じている。
結論
企業はこれまでもずっと、Windowsの利用に対してMicrosoftに対価を支払ってきた。Windows 7や8からWindows 10へのアップグレードは無料だったが、Windowsの継続的な利用が無料だったことはないし、そうあるべきというわけでもない。今回のケースでは、Windowsを利用することに対する対価の支払い方がサブスクリプション形式になっただけのことだ。これは、世界が転覆するような事態ではない。
一方の消費者向けに関しては、Windows 10やサブスクリプション形式の料金体系に関する将来の見通しは不透明だ。企業はセキュリティや管理サービスの改善に喜んで対価を払うだろうが、その価値が理解できない消費者は、月額課金に抵抗する可能性がある。Microsoftはそのことを理解しているし、凝り固まった抵抗を緩和する方法を模索するだろう。
例えば、Microsoftは段階的なシステムを採用して、基本的なWindows OSは無料にするかも知れない。そして、セキュリティアップグレードは無料版にも提供されるが、それ以上のことはあまり期待できないというものになる可能性もある。また次の段階のWindowsには、基本的なWindowsの機能に加えて、アプリやモノのインターネット用のプロトコル、Direct XやVRプラグインなどのエンターテインメント機能に対するアップグレードが提供されるということも考えられる。
このシナリオでは、消費者は自分が苦労した稼いだお金に対して、最高のエンターテイメントや体験、最高の価値を提供するプラットフォームであるOSに、少額の月額料金を支払うかも知れない。より重要なのは、実際には、それらの進んだ機能を手に入れるために、消費者がサブスクリプション料金を進んで支払う可能性も高いということだ。Windowsにサブスクリプション料金が設定されることは、世界の破滅ではない。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。