IoT導入の現場

IoTで市内全域をカバーする“見守りサービス”を構築--伊丹市と阪急阪神HDの挑戦

後藤敏也(ぷらっとホーム) 2016年08月04日 07時30分

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 近年、注目が高まっているIoT(Internet of Things)は、企業のニーズだけでなく幅広く社会のニーズにも応えるイノベーションを生み出すポテンシャルをも秘めている。そこで重要になるのが、社会の普遍的なニーズに応えるシステムを、長期運用ができる普遍的なものとして提供すること。そして、パートナーシップによる効率的なシステム構築と運用だ。それでは具体的に、IoTは社会にどのように組み込んでいくべきか。今回から2回に分けて、その好例を紹介していきたい。

 まず前編で紹介するのは、官民協業による新たなIoTサービスの構築事例。舞台は、兵庫県伊丹市だ。

市内の子どもと高齢者を見守るIoTサービスを官民協働で構築

 昨今、児童や生徒が被害者となる犯罪や、認知症高齢者の徘徊事案などが全国各地で増加傾向にある。自治体では防犯、見守りの強化に向けて早急な対応が迫られており、それは伊丹市も例外ではなかった。子どもや高齢者を事件や事故からどのように守るべきか。そこで伊丹市が注目したのが、兵庫県に本拠を置く阪神電鉄が手掛けている子ども見守りサービス「阪神あんしんサービス登下校ミマモルメ」だ。

 伊丹市は、阪神電鉄の母体である阪急阪神ホールディングスと協働で安全・安心なまちづくりを目的とした新事業「伊丹市安全・安心見守りネットワーク事業」を開始。「阪神あんしんサービス登下校ミマモルメ」のサービス基盤を基に、伊丹市内全域で子どもと高齢者を見守るIoTサービス「まちなかミマモルメ」を生み出した。

地域が一体となって見守るサービス、その特長は?

 「まちなかミマモルメ」は、BLE(Bluetooth Low Energy)で通信するBeaconを活用したIoTサービスだ。子どもや高齢者にはBeaconの発信機を携帯してもらい、このBeaconが発信する電波を、伊丹市内の様々な場所の電柱に設置した受信機が捉え、子どもや高齢者がいつ、どこにいたのかを保護者が把握することができる。

 ここまではよく聞く見守りサービスのスキームであるが、伊丹市と阪急阪神HDの取り組みの興味深いポイントは、このスキームに地域のボランティアを参加させている点、そしてその規模が伊丹市内全域という広範囲であるということだ。


「まちなかミマモルメ」のサービス概要

 一般的な見守りサービスは、子どもや高齢者といった対象者の位置情報を保護者に伝えるところでサービスが完結するが、伊丹市では見守り活動に地域のボランティアが参加。例えば、保護者が対象者の捜索・保護を依頼した場合には、ボランティアも専用のスマートフォンアプリで対象者のBeacon位置情報を捉えることができるようになり、容姿や顔を知らなくても捜索・保護に協力できるようになる。保護者、ボランティア、そしてBeacon受信機、これらが一体となり地域ぐるみで子どもや高齢者の安全を守るネットワークを構築したのだ。

市内全域を見守るシステム、そこで求められるものは

 このシステムの要となるのは、間違いなく市内に設置されたBeacon受信機。その数は市内全域で1000か所に及び、それら全てがリアルタイムに対象者の位置情報をサーバへと送信している。今回、ぷらっとホームの製品はこのBeacon受信機として採用されており、Bluetooth通信モジュール内蔵型のIoTゲートウェイ「OpenBlocks IoT EX1」が、この1000か所の電柱に取り付けられた。

 システムの運用に求められたもの。それは高い信頼性だ。「まちなかミマモルメ」では、市内全域1000カ所のBeacon受信機が常に正常に動作し、捕捉した対象者の位置情報をサーバーに送信し続けることが求められる。どこか1カ所でも故障があれば、それは見守りネットワークの“節穴”になり、システム全体の価値が問われることになる。加えて、1000か所のBeacon受信機に故障のリスクが付きまとえば、保守メンテナンスのコストも看過できないものになる。安定稼働こそがシステムに求められる最大のニーズなのだ。

 このシステムに採用された「OpenBlocks IoT EX1」を含むOpenBlocksシリーズの製品は、本体に稼働部品を一切採用しないファンレス設計になっており、長期稼働による故障のリスクは大きく軽減している。通信会社に数千台規模で導入し安定稼働させている実績や、10年以上という長期稼働を実現している事例もあり、こうしたハードウェアに対する高い信頼性が、システム全体の安定稼働を支えることになる。加えて、OpenBlocksシリーズの製品はLinuxベースのOSを採用し、オープンソースを活用したシステム開発が可能である。こうした柔軟性の高さも、長期間運用が求められるIoTサービスにおいて重要なポイントだと言えるだろう。

伊丹市と阪急阪神HDの協業が示唆するもの

 今回紹介した「まちなかミマモルメ」の取り組みは、IoTシステムの開発ノウハウを持つ阪急阪神HDのアセットと、地域に根差したサービスを普及促進することができるインフラを持つ伊丹市のアセットを融合した官民協業による成功事例だと言える。市内1000カ所の電柱を使って大規模なBeacon受信機のネットワークを構築するというのは、行政の後押しがなければ到底実現しないことであり、阪急阪神HDは行政のアセットを活用して自社のシステムのポテンシャルを最大化させ、また伊丹市は民間のアセットを活用して市民のニーズに最大限応えることができる行政サービスを構築できた。

 こうした官民協業の活性化は、民間、行政それぞれのニーズをお互いに満たすギヴアンドテイクを実現するものであり、これが全国的に拡大すれば地域のニーズに根差し、社会インフラとテクノロジが融合した新たなIoTサービスの登場が期待できるのではないだろうか。

後藤敏也
ぷらっとホーム株式会社IoTビジネス開発部部長
90年代初頭よりLinuxを始めとするオープンソース市場創成に貢献した日本を代表するエバンジェリストの一人。2000年に超小型Linuxマイクロサーバー「OpenBlocksシリーズ」を生み出し、本シリーズは累計10万台近く出荷されるベストセラーに。現在は、このOpenBlocksシリーズの利点を生かしてIoT市場の開拓と普及に注力している。

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