エンタープライズトレンドの読み方

カミソリ革命--Dollar Shave Clubの挑戦

飯田哲夫 (アマゾンウェブサービスジャパン)

2016-08-02 07:30

 設立5年の米国のスタートアップ、Dollar Shave ClubがUnileverにおよそ10億ドル(1000億円)で買収された(CNET Japan)。Dollar Shave Clubは、オンラインで申し込んだ顧客にカミソリを毎月自宅にデリバリーするサービスを提供する。2枚刃だと月に5個で1ドル、4枚刃だと月に4個で6ドル、6枚刃だと月に4個で9ドルである。ただし、2枚刃の場合のみ、シッピングコストが別途に2ドル必要となる。

 Dollar Shave Clubが面白いのは、第1に寡占型のビジネス領域への参入を目論んだこと、第2に“Razor & Blade”モデルと言われる鉄板のビジネスモデルに戦いを挑んだこと、そして、第3にそのビジネスがUnileverという大手企業に買収されたことである。

寡占ビジネスへの挑戦

 まず、寡占ビジネスへの挑戦。スーパーマーケットのカミソリ売り場へ行けば、この市場が大手ブランドの寡占マーケットであり、利用者をロックインする仕組みができあがっていることが分かる。しかも、成熟国でカミソリ市場が急拡大しているとは考えにくい。

 Dollar Shave Clubがその挑発的な動画広告において、主要ブランドのカミソリは機能過剰だと指摘する。現在の主要ブランドのカミソリは、振動を発生させることができたり、肌にぴったり添うようなメカニズムが備わっていたりして極めて高機能になっているが、Dollar Shave Clubは、必要最小限で良いのだと主張する。そのDollar Shave Clubが獲得した会員数は320万人。2016年の売り上げは、2億4000万ドルと推定されている。

“Razor & Blade”モデルへの挑戦

 “Razor & Blade”モデルとは、耐久性のパーツと消耗性のパーツを組み合わせ、消耗品の販売によって収益を上げていくビジネスモデルである。カミソリであれば、ハンドル部分が耐久品であり、替刃が消耗品となる。

 このモデルは、カミソリだけではなく、プリンタとカートリッジ、ゲームコンソールとゲームソフト、音楽再生プレーヤーと音楽コンテンツなどさまざまなところで見出すことができる。このモデルの特徴は、利用者をロックインする効果が強いため、新規参入のハードルが高いということだ。

 Dollar Shave Clubは、このロックイン型のビジネスモデルに対して、オンデマンド型で挑んだ点がユニークだ。いつでも始められていつでもやめられるオンデマンド型のサービスとすることで、ユーザーがDollar Shave Clubを試してみるハードルを下げている。機能を最低限に絞り込んだからこそ実現できるビジネスモデルだろう。

大手企業による買収

 Dollar Shave Clubが大手企業による買収という形で“出口”を迎えたことは、ベンチャー企業にも大手企業にも示唆に富む。

 UberやAirbnbのように、自らグローバル展開を目指すのも一つだが、大手企業の傘下でそのスピードを加速するのも理に適っているだろう。一方、大手企業の側からすると、鉄壁のビジネスモデルによって守られた寡占マーケットへの挑戦という、通常の経営判断であれば取り組むことのなかったであろう事業を獲得できたことになる。

 The New York Times誌は、Dollar Shave Clubの成功について、このようにコメントしている(訳は筆者)。

“Dollar Shave Club may be an uncommon event. But it is no doubt the wave of the future.”
(Dollar Shave Clubは、決して例外ではない。むしろ、これが時代の流れである)

飯田哲夫(Tetsuo Iida)

アマゾンウェブサービス ジャパンにて金融領域の事業開発を担当。大手SIerにて金融ソリューションの企画、ベンチャー投資、海外事業開発を担当した後、現職。金融革新同友会Finovators副代表理事。マンチェスタービジネススクール卒業。知る人ぞ知る現代美術教育の老舗「美学校」で学び、現在もアーティスト活動を続けている。報われることのない釣り師

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