ムーアの法則が限界に近づき、従来からあるシリコン製のトランジスタをカーボンナノチューブ(CNT)製のトランジスタで置き換えることが不可避となりつつあるなか、ウィスコンシン大学マディソン校で材料工学を研究するチームが小さな、しかし確実な一歩を達成した。同チームは1インチ四方のウエハに複数のCNTを整列させ、シリコン製のトランジスタよりも高い性能を引き出すことに成功した。
今回製造されたCNTトランジスタ(quasi-ballistic carbon nanotube array transistors:準無散乱伝導CNTアレイトランジスタ)は、シリコン製のトランジスタに比べると1.9倍という電流密度耐性を示しており、単一ナノチューブでの性能評価から外挿するとシリコンに比べて5倍高速、あるいは消費電力を5分の1にできると同大学は予想している。このテストは、サイズと形状、漏れ電流が等しいトランジスタ間で実施された。
同大学は声明で「ナノチューブの微細さゆえに、伝達する電流の信号を高速に変化させられるようになるため、ワイヤレス通信機器の帯域幅向上に大きく貢献できるだろう」と述べている。
チームの責任者の1人である助教授のMichael Arnold氏によると、同チームはCNTアレイを隔離するとともに、不純物を含むことで金属特性を帯びたナノチューブ(回路の短絡を引き起こす)を除去する技術や、ナノチューブを配置、整列させる技術、各種問題を解決した後で残った不純物を除去する技術を開発したという。
Arnold氏は「われわれの研究で、ナノチューブを実用化するうえで障害となっている問題は、すべて解決できるということを実証できた。これにより、シリコンやガリウムヒ素を用いたトランジスタの性能を上回る、画期的なCNTトランジスタを製造する道が開けた」と述べている。
「CNTは、大騒ぎされてきたにもかかわらず、実現に至っていなかったため、多くの人々は幻滅している」(Arnold氏)
「しかしわれわれは、(CNTが)大騒ぎされてしかるべきだと考えている。こういった素材を研究し、有効に活用するための材料工学分野での研究が数十年にわたって進められてきている」(Arnold氏)
今回の研究結果は米国時間9月2日にScience Advances上で公開された。なお、この技術は米国立科学財団と米陸軍研究局(ARO)、米空軍の資金を得て特許を取得している。
研究チームは現在、商業生産に向けたプロセスの規模拡張と、シリコントランジスタで採用されている形状への適合に取り組んでいる。
CNT関連のニュースとしては、Nanteroが2015年6月、DRAMやフラッシュメモリ、システムの生産ライン上に組み込み可能なストレージ向けCNTの利用について発表している。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。