藤本恭史「もっと気楽にFinTech」

東京オリンピックとFinTech - (page 2)

藤本恭史 2016年09月27日 07時00分

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現金?クレジットカード?NFC?

 もうひとつ大きな意識の差が発生するのが、言わずと知れたリアル店舗での決済手段です。日本人のクレジットカード保有率は、1人当たり3.2枚程度と言われていますが、実際の利用頻度、特にリアル店舗での少額決済となると利用機会がかなり減ります。クレジットカード処理に対する処理の面倒くささ(というイメージ)や、後ろの人を待たせてしまうであろう懸念などがそうさせるのかもしれません。例えばコンビニで300円の支払いにクレジットカードを使うか?と聞かれると、なかなかやらない、現金で払ったほうが早い、というのが一般の声ではないでしょうか。しかし外国人はあまり現金を持ち歩きません。クレジットカードでの支払いが主流であり、現金を持ち歩くということはそのままリスクを持ち歩くことになるという感覚があるためです。


 また、海外ではクレジットカードの利便性がかなり進化しています。ウィンターリゾートへの訪日が盛んなオーストラリアは、非接触決済先進国です。オーストラリアではコンタクトレスで決済が可能なクレジットカードの利用が広く普及しています。非接触決済とは、ICチップを埋め込んだクレジットカードやデビットカードによってコンタクトレスで決済するものであり、イシュアによって条件は異なりますが100ドル以下はカードを端末にかざすだけで決済が完了するというものです。サインもPIN入力も必要なければ、現金で小銭を出す間もなく決済が完了するためかなりスピーディです。

 日本でもSuicaなどの交通系カードやおサイフケータイなどいろいろと普及しているじゃないか?と思われるかもしれません。少額決済はクレジットカードではなくこれら交通系カードやおサイフケータイ、楽天Edyなどで行うという方も多いでしょう。しかし問題は、よく知られている通りこれらの非接触型の技術はFeliCaというソニーが開発した非接触型IC技術を利用しており、世界的に使われている非接触IC技術であるNFC(Near Field Communication)Type-A/B規格ではない、ということです。

 つまり、訪日観光客は基本的にFeliCaベースの決済手段を持たないため、日本で普及しているFeliCaのインフラを決済手段として利用することができないのです。この技術規格の相互乗り入れもしくは共存がもっと簡単にできれば問題はかなり解決するのですが、このギャップはなかなか埋まりません。日本でもType-A/Bの普及はVISAやMasterCardを中心に導入が進められていますが、対応読み取り端末の導入などでハードルも高く、訪日インバウンド需要にすべて答えられるほど広く普及しているとは言いがたい状況です。


 そのような中、AppleからiPhone 7が発表となりました。日本特別対応とも言えるiPhone 7でのFeliCa対応に心踊り買い替えの決意をされた方も多いと思います。しかし訪日インバウンド的にチャレンジは、このFeliCa対応モデルはどうやら日本専用モデルであり、従来のApple Payが対応するNFC Type-A/Bは海外モデルで利用可能、つまり、iPhone 7の中で現時点では共存できない、と言われていることです。FeliCa対応は間違いなく国内ユーザーにとって利便性の高まるものであり、期待させるものですが、一方で海外観光客が訪日した際に彼らの持つiPhone 7でFeliCaが利用できなければ、訪日インバウンド需要に対してのインパクトは限定的になってしまうことは否めません。 かつて世界に先駆けて非接触モバイルの流れを主導した日本市場だからこそ、ガラパゴスと言われる環境を超えてぜひ国際対応技術の導入促進・共存の実現を期待したいものです。

訪日インバウンドの需要刈り取りをどのレベルで捉えるか?

 技術規格の統一や共存に時間がかかろうとも、クレジットカードの利用受け入れが広範囲に広がれば、訪日インバウンドの需要を刈り取る、という意味においてはかなり効果を発揮します。そういった点で、SquareやCoineyなどのソリューションを活用して、スマートフォンやタブレットにリーダーやターミナルを接続するだけでカード決済ができる環境が都市部だけでなく地方レベルでも整えば、訪日観光客にとっての利便性はかなり高くなりますし、そういったFinTechソリューションは初期投資や開発コストを低く抑えて導入できる利点があります。特に小規模事業者にとって多くのメリットをもたらします。

 ということは、日本における最後のチャレンジは、ITリテラシーの向上と浸透かもしれません。導入するメリットはわかっても、誰がどのようにそう言ったソリューションの教育を提供するのか?いくら決済手段が簡単で導入が簡単だとしても、地方の昔からあるお店やマイクロビジネスでFinTechやデバイスを駆使した決済手段の提供が想像できるか?と問われると、なかなか想像できないケースがあることは否めません。ここはそれぞれの決済ソリューションを提供している事業者レベルの支援はもとより、公共団体や業界団体の支援が必要になると思われます。その1つの取り組みが、PayPalが日本旅館協会とともに発表した、日本旅館協会に所属する全国約2800宿泊施設へのPayPal導入促進です。

 訪日観光客がより日本らしいもの、よりローカルな価値を求めて都市部から地方部へと需要が多様化していくトレンドはもう始まっています。その際に、われわれが本当の意味で訪日観光客を国内観光客と同じように迎える準備を全国レベルでと整えることができるか否か、これが訪日インバウンドから生み出されるビジネス機会を最大化するためのカギになるのではないかと思います。


 例えばこんなケースはどうでしょう。日本に旅行に来た訪日観光客の家族が、地方の道でドライブの途中、数多くの日本人が車を止めてその野菜の直売所に集まっているのを見かけます。そこでは農家の方が近くで収穫された旬のとうもろこしをその場で焼いて提供しています。香ばしい匂いに誘われ、その観光客家族も車を止め、焼きとうもろこしを家族分購入しようとします。その直売所では、英語が通じない、そしてクレジットカードでの支払いができないとします。残念ながら訪日観光客家族が焼きとうもろこしを買うことができませんでした。

 このケースの場合、焼きとうもろこしを販売できなかったことを訪日インバウンドの需要に対しての機会損失としてみるべきでしょうか?それとも、もともとターゲットにしていない訪日観光客に対して機会損失はなかったとみるべきでしょうか?

 訪日インバウンドでよく取り上げられる「おもてなし」という言葉は、有償サービスの対価に対して提供されるものではなく、無償無形のサービスに対して提供されて初めて価値のあるものだと思います。そして、訪日観光客に対するサービスが国内観光客と同じになって初めて、真のおもてなしが実現するのではないでしょうか。そのために、決済の国際対応化は必須であり、東京オリンピックに向けての対応が急務です。決済の国際対応化が実現したとき、顕在的な訪日インバウンドに対するビジネス機会以上に、潜在的なビジネス機会の最大化を実現することができ、そしてその訪日観光客に提供された素晴らしい顧客体験が、次の重要なキーワードである「越境EC」のビジネス機会に繋がっていくことになります。

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