内閣府ImPACT研究グループ、光を使って難問を解く新しい量子計算原理を実現

NO BUDGET 2016年10月29日 07時00分

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 内閣府、NTT、国立情報学研究所(NII)、科学技術振興機構(JST)は10月21日、内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の研究開発プログラムにおいて、現代コンピュータでは効率よく解くことが困難とされている組合せ最適化問題の解を高速に求める「量子ニューラルネットワーク」を実現したと発表した。

 組合せ最適化問題とは、様々な条件の下で、多数ある選択肢の中から最適なものを選び出す問題で、問題サイズが大きくなると選択肢が爆発的に増えるために、現状のコンピュータでは解くことが困難となっている。そこで計算原理が全く異なる新しい計算機モデルの必要性が認識されており、量子コンピュータ、量子アニーラなどの取り組みが進められている。


量子計算原理

 その中でも世界の有力企業を中心に精力的に進められているのが、相互作用するスピン群のモデルである「イジングモデル」。組合せ最適化問題の多くは相互作用するスピン群のモデルである「イジングモデル」のエネルギー最低状態を求める問題に変換可能であることから、様々な物理系を用いて人工スピン群を作製し、イジングモデルを通して組合せ最適化問題を高速に解こうという試みだ。

 本研究プログラムでは、光パラメトリック発振器を光伝送路で直接つないで簡単なイジングモデルを実装するコヒーレントイジングマシン(Coherent Ising Machine:CIM)の研究開発を進めてきた。

 CIMでは、人工スピンとして光パラメトリック発振器(Optical Parametric Oscillator:OPO)の位相を用いている。OPOは位相が0またはπのみという特殊なレーザ発信器で、位相0/πをそれぞれ上向き/下向きのスピンに対応させることができる。光伝送路を介して互いに結合することでスピン間の相互作用を実現させ、OPO群をネットワーク化させる。これが多くの場合、ネットワーク全体の損失が最小となる位相の組合せで発振するため、イジングモデルの基底状態を与えるスピンの組合せを高い確率で得ることができるという。

 2014年に4つのOPOからなるCIMが報告された後、OPO数は16へ拡張され、2016年4月にはOPO数を1万へと飛躍的に増大することに成功している。しかし、これまではスピン間相互作用を光伝送路を用いて実装していたため、限られたネットワーク構造を実現するにとどまっていた。現実社会で課題となっている複雑な組合せ最適化問題に適用するためには全てのOPO間に結合を実装する全結合を実現する必要があった。

 今回の研究では、長距離光ファイバで構成された共振器を周回する時分割多重OPOパルス(スピン)群をニューロンと見立てた、量子ニューラルネットワーク(Quantum Neural Network:QNN)を開発。また、各OPOパルスの発振位相・振幅の近似測定を行い、その情報をもとにOPO間の結合信号をFPGA(Field Programmable Gate Array)を用いて生成し、これをフィードバック用光パルスに重畳して各OPOパルスに帰還する「量子測定フィードバック」回路をシナプス結合と見立てたシステムを実現した。これにより、任意のOPOパルス間結合が可能となり、神経細胞のネットワークに似た、従来に比して飛躍的に複雑な量子発振器ネットワークを実現したという。


光パラメトリック発振器と量子測定フィードバックから構成される量子ニューラルネットワーク

 NII-スタンフォード大学のチームは、構築した100ニューロン/5000シナプス結合のQNNを用いて組合せ最適化問題の一つである最大カット問題を解き、厳密解が知られている100ノード以下の問題に対し高速に厳密解を得ることを確認した。また、NTTのチームは、2048ニューロン/400万シナプス結合のQNNを用いて、ノード間の結合が多い問題に対しては、現代コンピュータ上に実装した既存の焼きなまし法アルゴリズムと比べ約50倍の高速化と近似精度の改善を達成した。


各ノードが3個の他ノードと結合しているグラフの最大カット問題に対する解探索結果。(a)ノード数と厳密解正答率の関係。ノード数100の問題に対しても、成功確率約20%で最適解を出力する。(b)16ノードの全てのグラフ(総数4060)に対する成功確率の実験および数値シミュレーションの比較。

QNNによる2000ノードグラフ最大カット問題(ランダムグラフ)の解探索結果。(a) グラフ問題。ピンクの点が各ノードを、白線がエッジを表す。(b)QNNによる5msの計算時間で得た解。ノードの集合が赤と青のノード群に分割された結果、緑線で示すエッジを切ることができた。

QNNとデジタルコンピュータ上に実装された従来アルゴリズム(焼きなまし法)とのイジングエネルギーの降下時間の比較。点線は精度保証のあるアルゴリズム(SemiDefinite Programming relaxation algorithm by Goemans and Williamson:GW-SDP)により得られたエネルギー基準値。エネルギー基準値に到達するまでに要した時間は、70μs(QNN)、3.2ms(焼きなまし法)であった(それぞれ100回の試行のうちの最速値)。

 プロジェクトでは今後、より大規模な組合せ最適化問題に対応し従来の計算機に対するいっそうの優位性を示すため、さらなるスピン数の増大を目指すという。また、創薬、通信ネットワーク、圧縮センシング、深層学習など、実社会の様々な課題にQNNを適用していくほか、QNNを遠隔で使用するためのウェブインターフェースを実装し、広範なユーザがクラウドサービスを利用できるようにすることで、QNNの新たな応用の開拓を目指す。

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