こんにちは。サイボウズの伊佐です。大きく変化しはじめた業務システム開発の現場をレポートする本連載。前回から「仕様書を用意しない」対面開発の現場をについてご紹介していますが、今回は「Flying Tiger Copenhagen(フライングタイガー コペンハーゲン)」という雑貨店を展開するZebra Japanの開発現場について、情報システム部の浅瀬石さん、田中さんにお話を伺ってきました。
情シスは汗をかく必要がある
伊佐:本日は、よろしくお願いいたします。「Flying Tiger Copenhagen」、自分も行ったことがあるのですが、大盛況ですよね。一方通行という独特な店舗デザインも面白いですし、いろんな雑貨との出会いもあって。お店に行くだけで楽しい気持ちになれます。
Flying Tiger Copenhagen 表参道店
浅瀬石さん:ありがとうございます。大きいお店だと、2000種類ほどアイテムを置いておりますし、月300~400ほどアイテムの入れ替えを行っています。何度来ても飽きないんじゃないかなと思いますね。
田中さん:行くだけで楽しいお店の雰囲気作りは、外装だけでなくチーム作りにも秘密があります。店舗では、社員もアルバイトも“あだ名”で呼び合う文化なんです。
伊佐:お店ではおふたりも“あだ名”で呼ばれたりするのですか?
田中さん:そうですね。自分は情報システム部に配属される前に店舗研修があったのですが、その時は“あだ名”で呼ばれていました。
伊佐:いまも店舗には行かれるのですか?
浅瀬石さん:はい、今も店舗へは訪問しています。というのも、店舗業務をフォローするシステムを開発したいのであれば、情報システム部のメンバーは積極的に現場に足を運ぶ、汗をかく必要があると考えています。
伊佐:なるほど、そのあたりの話、ぜひ詳しくお聞きしたいです。
Zebra Japan 情報システム部 田中氏(左)、浅瀬石氏(右)
異次元のスピードで業務が求められた黎明期
伊佐:「Flying Tiger Copenhagen」は5年で26店舗まで拡大されたそうですが、脅威のスピードですよね。特に2号店 表参道店の行列は、テレビのニュースになったくらい凄まじいものがありました。
浅瀬石さん: それはもう、忙しいなんて言葉では表現できないくらい……。普通の企業とは別次元のスピードで仕事を考える必要がありました。企業の走り出しは、経営戦略や、業務フローが常に変化して当たり前。求められるシステムも刻一刻と変わっていきます。当時は販売管理システムだけが存在し、ほかの業務はExcelシートでなんとかしていました。社内にありとあらゆるバージョンのExcelが存在していて、混沌としていましたね。
田中さん:「Flying Tiger Copenhagen」は、商品の企画/生産/販売と、国をまたいだ連携が求められます。デンマーク本社と日本とで、情報を円滑に共有していくことが必要でした。予定と違う商品が店舗に納品されたり、価格情報の動きが早かったりと、店舗業務において、そういった情報の管理は喫緊の課題でした。そういった課題をシステムで解決したいと考えていました。
「今欲しい」と言われたシステムは、その場で作る
伊佐:システム開発のスピード感を何よりも優先する、ということでkintoneに目をつけていただいたとのことですが、実際の現場ではどのように開発が行われていったのでしょうか。
サイボウズ kintoneプロダクトマネージャー 伊佐
浅瀬石さん:現状、弊社は外部パートナーの力を借りる一方で、社内リソースでシステム提供を行う「自力SI」も進めています。自力SI成功の秘訣は、現場と一緒に模索しながらシステムを作ることです。必然的に情報システム部のメンバーが自ら現場に足を運ぶことが多くなります。店舗や各部署のキーマンにヒアリングに行き、必要なシステムをkintoneでどんどん作っていきました。
伊佐:なるほど。それが冒頭の「情シスは汗をかく必要がある」ということなのですね。
浅瀬石さん:そうですね。すぐにシステムを作れるツールが手元にあると、現場に行きやすくなります。「こんなのが欲しいです」と言われたら、仕様書は用意せず、まず対面開発でシステムを作っています。現場の要望を聞いて、開発に半年もかかってしまうとニーズの新鮮さが失われてしまうものもあります。対応のスピードを上げたことが成果につながっています。
田中さん:こちらから業務改善の提案をすることもあります。「アイテム リクエスト」というシステムは、店舗メンバーからの声を聞いて思いつきました。店舗が商品の価格や商品名称などについて疑問を持った際、すぐにサポートセンターに相談できる場です(サポートセンターとは、店舗をサポートするバックオフィスのこと)。
「顧客対応記録」も情報システム部側から現場に提案したものです。店舗には、さまざまな理由で電話がかかってくるのですが、その内容をシステムで管理し、各部署に共有しています。元々、電話の内容共有は、店舗内の引き継ぎメモ程度で、紙運用だったのですが、それを、kintone運用にすることで、お店のみならずサポートセンター全員で確認できるようになりました。お客様の貴重なご意見の把握や、商品の状態等の確認ができるため、事業に生かせています。
伊佐:その使い方は、広島のスーパー「エブリイ」さんとよく似ていますね(前回記事参照)。現場の声を、リアルタイムに共有する。システムとしてはシンプルですが、効果は大きい連携ですね。