脳から思考を読む技術で「閉じ込め症候群」患者とのコミュニケーションを実現 - (page 3)

Jo Best (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 石橋啓一郎

2017-05-05 08:00

 イエスかノーかを答えられることは、完全閉じ込め状態にある患者にとって大きな可能性を開くものだが、答えが「イエス」と「ノー」以外の質問など、もっと豊かなコミュニケーションができれば、さらに患者のメリットは大きくなる。

 しかし、ブレーンコンピュータインターフェースを使ってそのレベルのコミュニケーションを可能にするには、技術的な知識や医療知識以上のものが必要かもしれない。これは、人間の思考の本質に関わる問題である可能性がある。

 人間の思考の多くは、目的指向であると言われている。例えば、ここへ行く、これをやる、あの人と話す、といった具合だ。しかし、体が完全に麻痺している人の場合、そういった目的を見つけることはまったく不可能であるため、患者の認知もそれに応じて変化する。これは、人間が伝えたいと思う考えや反応の詳細が、脳のどの部分に現れるのかについて、研究者が考え方を修正する必要があるかもしれないことを意味している。

 「『何かを食べたい』とか、『あの人に会いたい』と100回考えてもそれが実現しなければ、人はそのように考えるのはやめて、別のことを考えるようになる」とBirbaumer氏は言う。

 「完全閉じ込め状態が、自発的で複雑な、目的指向の思考をなくしてしまうことはあり得ることだ。簡単に答えが得られる反射的な思考と比べて、目的指向の思考にはずっと強い集中力が必要だ。目標指向の思考はしなくなってしまうかもしれない。これは、考えることを完全に止めてしまうことを意味するわけではない。自発的ではない形で考えるということだ。自発的ではない形のコミュニケーションが難しいのはこれが理由だが、この状況を変えられるかもしれない」(Birbaumer氏)

 いずれは、代謝的および電子的な情報を組み合わせたハイブリッドなシステムで、患者の注意力がもっとも高いタイミングを計測できるようになり、より豊かなコミュニケーションが可能になるかもしれない。これまでヴィースセンターは、手術による感染のリスクを回避するために、患者の脳に直接電極を埋め込むことを避けてきたが、将来的には、そういった処置によって、完全閉じ込め状態の人たちのコミュニケーション信号を増幅することも考えられる。

 また、脳の損傷などによってコミュニケーションが阻害されているなどの条件の違う患者でも、このシステムを使用できる可能性があるかもしれない。そうなれば、それらの患者がまた意思を表現できるようになる可能性もある。Birbaumer氏は、「コミュニケーションのない人生は本当の人生ではない」と語っている。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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