日本マイクロソフトと野村総合研究所は、金融市場におけるデジタルトランスフォーメーション推進に向けたコンソーシアムとして、「金融デジタルイノベーションコンソーシアム(FDIC)」を、11月1日に設立した。
推進役を野村総合研究所、事務局を日本マイクロソフトが務め、設立時点では両社を合わせて合計11社が参加する。参加企業は、インテック、インフォシスリミテッド日本支社、新日鉄住金ソリューションズ、電通国際情報サービス、日本システム技術、日本ビジネスシステムズ、日本ユニシス、ニューメリカルテクノロジーズ、FIXER。
野村総合研究所 執行役員 金融ITイノベーション事業本部の横手実副本部長
野村総合研究所 執行役員 金融ITイノベーション事業本部の横手実副本部長は「ベンダーだけでは解決できない問題もある。今後、金融機関の参加も呼びかけ、地に足の着いたコンソーシアムにしていきたい」としており、金融機関の参加を呼び掛ける。
金融クラウドの実用性に関する実証実験を実施するとともに、セキュリティやコンプライアンス対応など、非競争領域における各社共通の検討課題について参加企業が情報を共有し、標準化のリファレンスアーキテクチャを設定することで、金融機関の業務改善や業容拡大を図り、工数の削減やIT投資の最適化、サービスリリースの短縮化による収益向上への貢献を目指すという。
具体的には、2018年3月に改訂予定のFISC安全対策基準におけるセキュリティやコンプライアンス対応への配慮など、金融機関での利用要件を充足する柔軟で利便性の高いクラウド基盤の標準化を目指す「金融クラウド活用ワーキンググループ」、金融機関における生産性向上や営業支援、顧客接点の強化、的確な規制対応など、高度なデータ活用によるデジタルトランスフォーメーション推進への貢献を目指す「高度データ活用ワーキンググループ」、人工知能や深層学習、ブロックチェーンといった新技術を活用することで、新たなビジネスモデルの開発などを狙った次世代金融プラットフォームのあり方を検討する「新技術ワーキンググループ」を設置。
ユースケースの確立や実証実験の実施、リファレンスアーキテクチャの確立を目指す。11月中に最初の検討会を開催し、今後3カ月に一度程度のペースでワーキンググループを開催する予定だという。
金融はマイクロソフトの重点分野
日本マイクロソフト 執行役員常務 パートナー事業本部の高橋美波本部長
日本マイクロソフト 執行役員常務 パートナー事業本部の高橋美波本部長は、「日本マイクロソフトは、インダストリーイノベーションの推進に向けて、金融業界は6つの重点分野の1つになっている」と指摘。金融業界では、新たな働き方文化、顧客体験の変革、業務の最適化、商品イノベーションの推進が課題となっており、バンク・オブ・アメリカでは、20万人の従業員がOffice 365を導入し、セキュリティの強化とともに働き方改革に活用。UBSなどでは、信用評価にMicrosoftのAIを活用して、評価時間の短縮化を実現している例があるという。
また、Microsoftがアジアの金融サービス業界を対象に行った調査では、デジタルトランスフォーメーションの重要性を認識していると回答した比率は81%に達し、IoT、人工知能、次世代コンピューティングといったテクノロジに注目が集まる一方で、サイバーセキュリティに対する不安があることが分かった。金融機関に人が出向かなくてはならないという環境を変える必要もあり、それは他の業界に遅れている点とのこと。「こうした課題を解決するためにも、今回のコンソーシアムを支援していくことになる」と話した。
日本マイクロソフトでは、2016年に「IoTビジネス共創ラボ」や、「ディープラーニングラボ」などのコミュニティを発足させており、これらを「Industry"x-Bix”Community」と呼んでいる。今回の金融デジタルイノベーションコンソーシアムも、その取り組みの一環となる。「金融デジタルイノベーションコンソーシアムに対して、最新技術の共有や外部への露出、各コミュニティとの連携、トレーニングカリキュラムの提供、パートナー企業への横展開などで支援ができる」(高橋氏)としている。
横手氏は「既にIT市場や、広告市場、自動車市場などは、新たな市場が構成され、あらゆる業界で、10年を待たずに1兆円規模での産業構造変化が見られている」と述べる。
金融業界でも同様の動きが始まっており、既存の金融機関は、金融サービスの提供が主事業となっているが、FinTechという流れの中で、既存の金融機関ではない金融サービス提供事業者との戦いが始まっているとする。
一方、働き方改革やセキュリティ上の課題などへの対応も求められている。さらに、もともと金融業界は最先端でITシステムを活用してきたが、多くの消費者がデジタル端末を活用し始める中、堅牢性を求めることもあり、その流れに追随できずに、ちょっと遅れた立ち位置にあるとする。
「金融サービスが使いにくくなることにもつながっている。ITを活用することで競争力を高めていくことは金融機関でも同様である。今回のコンソーシアムの中では、非競争領域の中で、ビジネスの課題をどう解決するかといった点で議論を深めたい。セキュアであり、より低コストで、共通的に利用できるようなものを目指したい」(横手氏)
また、「他の業界で起こっている事例を金融業界にも展開できる」として、ホワイトカラーの働き方の可視化や、人工知能を活用したRPA(Robotic Process Automation)による業務の自動化、テレワーク環境の実現における課題解決などに取り組むという。
以下は、発表会のプレゼン資料。