LinuxがスパコンTOP500でOSシェア100%に--普及の背景、展望

Steven J. Vaughan-Nichols (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 石橋啓一郎

2017-11-23 08:00

 Linuxがスーパーコンピューティングの世界を制覇した。1998年にスーパーコンピュータTOP500リストにLinuxが登場した日から、その日は着実に近づいていた。そして先週、ついにそれが達成された。今や世界最速のスーパーコンピュータ500台すべてが、Linuxで動いている

 非Linuxシステムの最後の2つだった、IBMの「POWER」プロセッサを搭載し、AIXで動作していた中国の2システムは、2017年11月のTOP500リストから消えた。

 全体的に見ると、現在スーパーコンピュータ競争でTOPに立っているのは中国で、202のシステムがTOP500にランクインしている。これに対して米国は143システムだ(日本は3位で、35システムがランクインした)。中国はパフォーマンスの合計でも米国を上回っている。TOP500の合計FLOPS数のうち、中国のスーパーコンピュータは35.4%を占めたの対して、米国は29.6%だった。

 スーパーコンピュータTOP500のリストが初めて作成された1993年6月頃のLinuxは、まだ勢いをつけつつある段階だった。マスコットである「Tux」さえいなかった頃だ。しかし、スーパーコンピューティングの世界にLinuxが広まるまで、長くはかからなかった。

 1993~1994年にかけて、米航空宇宙局(NASA)のゴダード宇宙飛行センターのDonald Becker氏とThomas Sterling氏は、商用オフザシェルフ(COTS)スーパーコンピュータを設計した。これがクラスタリング技術「Beowulf」だ。当時一般的だったスーパーコンピュータを購入する予算がなかった同氏らは、16基のIntel 486 DX4プロセッサで構成され、ボンディングされたイーサネットで相互接続されたPCクラスタを構築した。Beowulfで作られたコンピュータはすぐに大成功を収めた。今日でも、Beowulfの設計は、スーパーコンピュータを安価に設計する手法としてよく使われている。

 LinuxがTOP500リストに初めて登場したのは1998年だ。Linuxがトップに立つまでは、UNIXがスーパーコンピューティング界の頂点の座を占めていた。しかし2003年以降のTOP500リストは、Linuxの色に染まっていく一方だった。2004年以降、Linuxが首位の座を譲ったことはない。

 「研究や技術的イノベーションを前進させる、コンピューティングパワーに関するブレークスルーの背景にあった推進力はLinuxだった」とLinux Foundationは述べている。これは、Linuxがスーパーコンピューティング界を制することができたのは、少なくとも部分的には、研究者がコンピューティングパワーの限界を押し広げるのに役立ったためだったことを意味している。

 これには2つの理由がある。第1に、世界上位のスーパーコンピュータは専門的な用途のために作られた研究用のマシンであり、どのマシンも、特徴や最適化の要件が異なる、独自のプロジェクトだということだ。費用を抑えるには、システムごとに専用のOSを開発することは避けたい。しかしLinuxであれば、オープンソースになっているLinuxのコードを使って、目的に合った専用の設計に簡単に修正、最適化できる。

 例えば、新しいLinux 4.14では、スーパーコンピュータで「Heterogeneous Memory Management」(HMM)を使用できるようになっている。これはGPUとCPUがプロセスの共有アドレス空間にアクセスできるようにする技術だ。TOP500のうち102システムでは、GPUをアクセレレータまたはコプロセッサとして使用している。HMMが利用できれば、これらのシステムのパフォーマンスは改善される。

 同じく重要なのは、Linux Foundationが指摘している通り、「自力でサポートする専用のLinuxディストリビューションのライセンス費用は、使っているのが20ノードであろうと、2000万ノードであろうと同じだ」ということだ。また「巨大なLinuxコミュニティに参加すれば、サポートや開発者のリソースに無料でアクセスできるため、開発者にかかる費用をほかのOSと同水準かそれ以下に押さえるのに役立つ」という点でも有利だ。

 Linuxはついにスーパーコンピューティングの世界を制覇したが、この地位が失われることは想像しにくい。それには、例えば量子コンピューティングなどの、Linuxによるスーパーコンピューティングを根本から揺るがすハードウェアの革命が必要だろう。もちろん、IBMの開発者がすでに量子コンピュータとLinuxについても議論していることを考えれば、それでもLinuxの支配は続いていくのかもしれない。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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