企業の拠点が置かれている地域の法律に準拠したり、ニーズに対応するという目的で、単一の大規模クラウドをより小規模な複数のクラウドに置き換えるという動きが出てきている。その一方でコンサルタントらは、「デジタルフラグメンテーション」につながると警告している。
クラウドコンピューティングには、ソフトウェアの実行やデータの格納に用いられる、サーバをはじめとする物理的なインフラのロケーションをまったく意識する必要がないという基本的なメリットがある。
クラウドという概念が電話通信業界のネットワーク図から借用されたのは、ここに理由がある。こういったネットワーク図では、電話回線ネットワークが(後にはインターネットのネットワークが)クラウド(雲)として描かれ、その部分についてはテクノロジの中身と、ロケーションは重要でないということが示されていた。
しかしクラウドコンピューティングの場合、地理的な場所はかなり重要になってきている。大手のクラウドコンピューティング企業(その大半は米国に拠点を置いている)は、世界のそこかしこにあるデータセンターから顧客にサービスを提供することで規模の経済を実現できると考えていたが、必ずしもそうはならないという事実が明らかになってきた。
クラウドサービスは、それぞれの地域に対して、該当地域から提供されるようになってきている。その理由の1つにレイテンシの問題がある。データセンターとの間でやり取りされるデータの伝送時間は、株式取引のようなアプリケーションでは無視できないものとなる。また、プライバシーに関する法令や、その他の法規制も理由の1つとなっている。
クラウドコンピューティングは成長するにつれ、地政学的な現実や、数多くの国境をまたがってユーザーにサービスを提供するうえでの制約に取り組む必要に迫られるようになっている。多くの企業は、コンピューティングパワーを提供する顔の見えないクラウドになるよりも、サービス利用者により近い場所のインフラを用いることを好む(そして、しばしば義務づけられている)ようになったのだ。
例を挙げると、欧州内で提供されるクラウドコンピューティングサービスが著しい成長をみせている(欧州連合(EU)はデータ保護に関する厳しい規制を課している)。そしてこのような動きは、EUの一般データ保護規則(GDPR)の施行が2018年に迫るなか、さらに加速していくだろう。また、米国当局は米企業のデータセンターに格納されているデータについて、たとえ該当データが米国内に格納されていない場合でも、開示要求を出せるという点についての懸念もある。

提供:Getty Images/iStockphoto