パブリッククラウドの普及による状況の変化
しかし、その様相が少しずつ変わってくる。その理由は、2010年代に入ると徐々に「パブリッククラウド」の導入が盛んになってきたことだ。このパブリッククラウドを語る上で、“ガリバー”と称されるAmazon Web Services(AWS)を避けて通ることはできない。
AWSについて、当初はECサイト運営事業者であるAmazonの副業ぐらいだと捉えるベンダーの方が多かったと思う。さらに、初期のAWSはミッションクリティカルな基幹系システムなどに耐えるレベルの可用性や実績を持っておらず、当時はごく一部の“軽い”システムを簡単に利用する限定的なツールだと言い切る人々も珍しくはなかった。
クラウドという言葉が知られるようになってから10年以上が経過し、時代は変わった。現在では、システムを基本的にパブリッククラウドで構築し、それができない例外的なものだけをオンプレミスで構築するというのが、むしろ一般的になりつつある。10年前と現在のクラウド環境が変わった要因は、以下の2つだと思われる。
1つは、パブリッククラウドの導入実績が多くなり、ユーザーが安心して利用できるものになってきたことだ。AWSがガリバーであることはまだ変わらないが、AWSの競合とされるMicrosoft AzureやIBM Cloudなども順調に導入企業を増やし、パブリッククラウドの信頼性と実績の向上に寄与している。これらのクラウド提供者は、従来のITシステムを支えてきた大企業であり、彼らが相次いで参入したこともあって、ユーザーは安心してパブリッククラウドを利用できるようになった。
もう1つは、この10年間でオンプレミスやプライベートクラウド上にあるユーザーのシステムの多くが、VMwareなどの仮想化基盤に移行したことだ。仮想化基盤には、ハードウェアリソースを効率的に利用できるという大きなメリットがあり、企業に広く普及した。仮想化基盤のメリットはそれだけではない。システムが仮想化基盤上に移行してしまえば、当然ながらそのシステムが物理環境に依存しなくなるので、仮想化基盤を前提とするパブリッククラウドへの移行障壁が劇的に下がるのだ。その結果、まだ先のことと思われていた大規模システムのパブリッククラウドへの移行が現実に起きている。