ヒューマンエラーは、日常的に頻発しており会社にとって非常に大きな損失をもたらす危険をはらんでいます。第4章に続いて組織やチームでヒューマンエラーを抑止する方法を筆者の実体験から紹介し、本連載を総括したいと思います。
4.教育訓練を充実させる
ライセンス制度により習熟度と緊張感をアップ
以前所属していた現場で、ライセンス制度を導入したことがありました。「ライセンス取得者だけが操作できる」という特別感がやる気と責任感を喚起し、職場全体にちょうど良い緊張感が生まれて、業務への対応スピードが向上し、ミスは減少しました。
さらに、勤務表(シフト)作成に対する効果もありました。当時は、勤務管理者の主観的判断に委ねる場合もありましたが、ライセンス制度によって個々の業務スキルを可視化したことで勤務表作成の効率と的確度が向上しました。その結果、スキルバランスのとれた体制で業務が遂行できるようになり、安定運用につながっていきました。
ヒヤリハット事例はヒューマンエラー対策に使える
教育訓練の機会を増やすことは、学習する習慣を定着させてくれます。技術的なスキルアップはもちろんのこと、リスクに対するリテラシー向上にもつながります。最も実践的で好評だったのは、職員の発案によるヒヤリハット事例を使ったミニ勉強会でした。
勉強会は朝のミーティングの後、10分以内で説明するというもので、部内の職員が持ち回りで発表を行いました。同じような事例でも、発表者が異なり、別の視点で見ることで斬新な意見が出ることもあり、管理者にとっても多くの発見と学びがありました。これを定期的に繰り返してまとめた報告書をデータベース化して、マニュアル(手順書)として利用できるようにしました。
5.ミスが起きない環境作り
ミスを起こさせない管理体制・経営陣になる
勤務者のスキルバランスを可視化したことで、担当者同士がリスクに備えて協力し合うという意識が生まれ、準備段階で情報共有が十分に行われるようになり、本番での不安が解消されました。「職場はチーム全員で守る」という連帯意識が徐々に浸透して風通しの良い職場になりました。
一方、管理者のミスに対する態度は職場に非常に大きな影響を及ぼします。「人は誰でもミスをする」と認め、ミスした当事者を責めない土壌を作るのが管理者の役目です。
経営トップの意識
今や、人・モノ・業務の外注化、委託化が当たり前になり、一企業が社員の努力だけで自社の安全を守るのは難しい時代です。現状では安全対策と効率化がトレードオフの関係になっているケースが多いようです。経営トップに必要なのは「組織にとっては安全が最優先」という意識を持ち、「安全を優先するためにかけるコストは惜しまない」という文化を企業内で醸成することです。
ミスを起こしにくい職場環境づくり
どんなに完璧な人でも体調が悪かったり集中力が低下したりすれば、ミスを引き起こす可能性が高まります。この可能性を極力低く抑えるために、組織としての環境作りも非常に重要です。例えば、体調不良の人がいれば、別の社員がすぐにサポートに回れる体制を作るとか、集中力を高く保つために業務の切れ目、節目に合わせて適宜休憩が取れるようにするなど、人にやさしい仕組みと雰囲気を作ることが大切です。
わずかな違和感や小さなミスをいち早く発見するのは整理整頓
職場のわずかな違和感に気づくには、普段から整理整頓を心がけることです。職員には、たとえボールペン1本でも次に使う人のことを考えて必ず元の位置に戻すよう、指導しました。物品が整然と配置されて見た目も分かりやすく使いやすい環境は、他人への思いやりから生まれるのです。また、普段から整頓を心がけることで、いつもと違う光景に気づくことができ、事故の未然防止にも役立ちます。