「人」の観点でとらえるセキュリティ対策の考え方

國谷武史 (編集部) 2018年03月16日 06時00分

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 サイバー攻撃などによるセキュリティ事故では、技術的な観点から攻撃や対策の手法が論じられがちだが、「人」の観点ではどうか――。標的型攻撃の包括的なソリューション提供で企業のセキュリティ対策を支援するベースラインAPT対策コンソーシアムが3月2日、都内でセミナーを開催し、基調講演で明治大学 理工学部情報科学科の齋藤孝道教授が解説した。

人や組織で対策を考える必要性


明治大学 理工学部情報科学科の齋藤孝道教授

 情報漏えいなどのセキュリティ事故の報道では、よく「どのような脆弱性が悪用されたのか」「どのようなマルウェアが使われた」など攻撃手法が取り上げられ、対策でもアンチウイルスやファイアウォールといった技術的な方法への関心が高い。ITに関係する事故という性質から技術に注目が集まりがちだが、齋藤氏は人や組織の観点から事故を分析した結果と対策の考え方を紹介した。

 明治大学情報セキュリティ研究室が、2004~2017年にメディアで報道された3532件のセキュリティ事故の内容を分析したところ、従業員規模別の発生件数は21~100人の組織が363件で最も多く、20人以下では249件、1001~5000人では284件。1万1人以上の大規模組織は155件だった。

 「サイバー攻撃で狙われるのは大企業」というイメージが根強くあるものの、実際には規模に関係なく発生すると指摘する専門家は多い。明治大学情報セキュリティ研究室の分析結果も、この指摘が事実であることを裏付けるものとなっている。一方、事故原因(報道ベース)の傾向を年次で見た場合、2015年以降に「人的ミス」の割合が増えていることが分かった。

 齋藤氏は、国内外のセキュリティ動向に関する統計から、サイバー攻撃のトレンドが人や組織に移りつつある可能性があるとの見解を示す。一例を挙げると、警察庁の統計ではマルウェアなどを使った不正送金事件が2014年をピークに減少に転じており、同庁の統計では、増加傾向にあった標的型攻撃メールもここ1~2年では頭打ちの様相を見せる。ランサムウェア攻撃の検出もピークは2015~2016年で、2017年は減少(トレンドマイクロ調査)した。

 こうした変化の背景として齋藤氏は、もちろん技術的な対策の普及あるいは攻撃目的の変化といった影響が考えられるものの、これまで以上に人や組織の観点からセキュリティ対策を考えていく必要性が高まっていると指摘する。

人や組織のプロセスが与える影響

 続いて齋藤氏は、2015年に発生した日本年金機構での個人情報漏えい事件と、2017年に発生した民間企業でのクレジットカード情報漏えい事件について、独自の分析結果を説明した。

 日本年金機構での事件は、詳しい事故調査の報告書が同機構や所管する厚生労働省から公開された。それをもとにした分析で齋藤氏は、同機構が(1)ネットワーク分離の対策を講じていたこと、(2)ネットワーク監視を行っていたこと、(3)サイバー攻撃を初期段階で検知したこと――をポイントに挙げる。齋藤氏によると、機構の当時の技術的な対策は現在でも高度なものだが、約125万件もの個人情報の漏えいにつながった背景には、人的・体制的な要因が大きいという。

 例えば、攻撃の発端は内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)による不審な通信の検知だった。検知情報は厚労省を通じて機構側に通知され、機構側のセキュリティ担当も攻撃に使われたメールを不審なものと認識したが、機構内でそれらの情報がうまく共有されなかった。事態に対応する過程では、事情を把握していない他部署が別の攻撃メールを開いてマルウェア感染が拡大したり、組織的な判断を誤ったりといった状況が連鎖したとされる。

 齋藤氏は、技術的な対策を前提としつつ、この事件からの教訓としては、2018年の現在でも簡単なことではないながらも、現場レベルの対策手順の徹底やトレーニングを実施することが重要であると話す。

 また、2017年に民間企業で発生した事件は、業務再委託先のシステムに本来保存されるべきではないクレジットカード情報が保存されていたことと相まって、システムのソフトウェアの脆弱性を突く攻撃によって外部に流出した。攻撃は脆弱性の公表直後に発生し、事件が公表されるまでにはSNSで事件を疑う投稿も相次いだ。

 この事件について齋藤氏は、脆弱性に関する情報の収集や業務委託先を選定する力、適切な対策の導入ができていないことが影響したと指摘する。

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