Veeam Softwareは4月18日、「ハイパーアベイラビリティ」をコンセプトにした新たな製品戦略を発表した。デジタル社会の進展に伴うITサービスの重要さが増す中で、高可用性を実現するための運用の自動化を掲げている。
Veeam Software 製品戦略担当バイス・プレジデントのDanny Allan氏
新たな製品戦略は、同社が5月に米国シカゴで開催するカンファレンス「VeeamOn 2018」での発表を予定しているが、今回はその概要を製品戦略担当バイス・プレジデントのDanny Allan氏が説明した。まずAllan氏は、企業には人がデジタル社会に期待する信頼を提供する責務があり、その主役となる個人情報や知的財産といった重要なデータの保護と活用が基軸になると述べた。一方でデータは種類も量も増大し続け、その保管場所はオンプレミスやマルチクラウドに広がる。
こうした複雑なIT環境においてAllan氏は、同社がデータ保護という価値を提供してきたと強調。これまでの製品戦略では、VMwareやMicrosoftなどによって仮想化されたシステムのバックアップ/リカバリソリューションを中心に、HPE 3PARやNetApp、Nimble、IBM、Infinidatとの協業によるストレージレベルでのデータ保護と可用性の提供に注力。この取り組みでは、新たにPure Storageとも協業を開始した。また、アプリケーション領域でもMicrosoftらとの協業でこうした価値を提供していると語る。
Allan氏は、その結果として多くの顧客企業が、データの集約化と可視性の確保というステージに到達した説明。新たな製品戦略では、その先にあるという「ハイパーアベイラビリティ」をコンセプトに、顧客企業がITサービスのオーケストレーションと自動化という次なる段階に進むためのソリューションを提供していくと話す。
一例としてAllan氏は、「データラボ」と呼ぶ機能を挙げた。同機能は、適切に保護されたバックアップデータのコピーをさまざまな用途に活用するというもの。例えば、システム開発ではダミーデータの代わりに利用することで開発精度を高められるほか、セキュリティパッチを適用する前の検証や侵入テスト、フォレンジック調査などにも利用することで、本番環境では実質的に不可能だったこれらの作業を本番環境に近い状態で行えるようになるという。
新たな製品戦略の全体イメージ。従来のバックアップとリカバリをベースにしつつ、ITサービスの高可用性化を図るための運用技術を進化させていく(説明会資料より)
また、運用の自動化に向けてはパートナーとの連携が柱になる。主には汎用APIを通じたインテリジェンスの提供で、例えば、既に協業するCisco Systemsとは、ネットワーク側で検知された異常やセキュリティ上の不審な兆候といったイベントをトリガに、自動的にシステムをクラウド環境へバックアップするといった仕組みの開発を進める。将来的には、ネットワークトラフィックの増加から自動的にシステムリソースをクラウドに拡張したり、自然災害の発生を検知してシステムをディザスタリカバリサイトへ自動的に待避させたりするような仕組みも可能になるとしている。
Allan氏は今後、ITサービスのワークロードがオンプレミスやマルチクラウドの複雑な環境を行き来し、そこではユーザーに影響を意識させない高可用性が必然になると見る。新たな製品戦略は、上述のような仕組みを提供することで、インテリジェントなITサービス運用の自動化を図ることだとしている。
慶応義塾 インフォメーションテクノロジーセンター本部の宮本靖生氏
記者会見では、2013年夏からユーザーという慶応義塾 インフォメーションテクノロジーセンター(ITC)本部の宮本靖生氏が導入事例を紹介した。導入以前の仕組みでは、初期バックアップに60時間以上を要し、手作業で開発したスクリプトを使っても10時間近くかかるなど、バックアップに課題を抱えていたという。
Veeamとは代理店の紹介で出会い、バックアップ時間の大幅短縮や容易な操作性、コストといった必須要件を全て満たしたことから採用を決めた。この間にハイパーコンバージドインフラ(HCI)製品を利用したシステム基盤の仮想化集約なども進めてきたが、Veeamの継続使用を決めたという。
「ITC本部としては、新サービスの提供に注力したいので、インフラの運用管理には時間を掛けたくない。5年以上も同じベンダーを使い続けることはほとんどなく、その点でVeeamはほとんどの要件を満たし、良い意味で『(トラブルなど)何も起きない』ところを評価している」(宮本氏)
加えて宮本氏は、「システムがどこで稼働していようとあまり気にならない時代になり、それよりもITサービスが確実に提供されていることの方が重要になっている。IaaSやPaaSの活用も検討しているので、可視性の向上や運用の自動化をぜひ実現していただきたい」と話し、Allan氏が説明した新たな製品戦略に期待を寄せた。
慶応義塾でのVeeamを導入しているシステム構成イメージ。慶応義塾大学を中核とするだけに、教育と学術研究開発におけるITサービスの可用性は“生命線”ともいえる(説明会資料より)