米Molina Healthcareは、Fortune 500の選出される民間の医療保険会社。メディケアやメディケイドなどの公的医療保険制度を介して、米国の15の州で約500万人が同社医療サービスを利用する。医療保険制度改革(通称:オバマケア)が始まった2011年以降の6年間で加入者が爆発的に増加し、ビジネスは急成長を遂げている。こうした米国における医療業界の変化に伴い、ビジネス戦略の実現を支えるIT環境の整備が急務となった。
具体的には、医療システムの変化に対応するため、アプリケーション開発のスピードやアジリティが求められるようになった。また、アプリケーション開発に必要な大量の本番データのコピーを維持するため、ストレージ容量とコストの予測が必要だった。
また、コンプライアンス対応の強化に伴い、個人の健康情報を保護するための要件も追加された。「従業員の増加やシステムのコストを抑えながら、経営の効率性を高める必要があった」とMolina Healthcareで最高情報責任者(CIO)を務めていたRick Hopfer氏は当時を振り返る。
Molina Healthcare 元最高情報責任者(CIO)のRick Hopfer氏(左)とDelphix アジア・パシフィック&ジャパン担当副社長のRichard Gerdis氏(右)
データ管理が業務プロセス全体のボトルネックとなっていたMolinaでは、データ仮想化ソフトウェア「Delphix Dynamic Data Platform」を2012年に導入した。Delphixは、オンプレミスやクラウドなどさまざまな場所に散在する本番環境からDelphixサーバに本番データを同期し、そのマスターコピーを使って開発環境向けに仮想データを生成する。
初回のコピー以降は、増分変更のみを継続的に取得する。システムやネットワークに与える影響を最小限に抑えられるほか、圧縮技術でデータ容量を3分の1~2分の1のサイズに削減できるとしている。
Delphixでは、複数の仮想的なデータコピーをまとめてパッケージ化したものを「データポッド」と呼ぶ。ユーザーはデータを自由に変更したり、復元したりできる。データは物理コピーを伴わないため、複製や移動にかかる時間や手間を減らし、データの保管コストを抑えられる。
Molinaは、IT活用で求められるストレージ要件を4~5ペタバイトから300テラバイトに削減したほか、500件を超える開発・テスト・品質管理・トレーニング環境で6000個以上の仮想データを利用。それによって、600万~1000万ドルのストレージコストの節約を可能にした。
新しい開発環境を準備したり、不具合が起きた再現環境を構築したりする際も、これまでは数日を要していたが、数分で完了できるようになった。開発テストや品質保証の工程で大幅な時間短縮が実現したことに加えて、開発者が本番環境と同等のデータをセルフサービスで用意できるようにしたことで、アプリケーションの開発時間を50%削減した。これによって「年間400万~500万ドルの人件費を削減可能」(Hopfer氏)とした。
Delphixには、データをマスキングする機能も備わっている。機密データを検出して自動でデータのマスキングやトークン化を行い、機密情報を暗号化した上でコピーすることができる。Molinaでは、この機能を用いて個人の健康情報を保護するためのデータマスキングと暗号化の仕組みを実装。HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act:医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律)に準拠したデータのやり取りを実現した。
「米IBMの発表によると、医療業界におけるデータ漏えいの損失は、1レコード当たり380ドルとなる。これは全産業における平均損失額の2.5倍以上に相当する」とHopfer氏は指摘し、医療業界におけるデータ保護の重要性を強調した。
さらに、6年以上にわたってデータベース管理者(DBA)を増員していないという。データ管理におけるボトルネックを解消することで、DBAの人件費で年間60万ドルの削減につながったと試算する。