なぜ安価に導入できるのか
オブジェクトストレージは、クラウドサービスのストレージ基盤やアクティブアーカイブの分野で導入が進んでいます。ストレージシステムの運用費用を削減できれば、サービスに競争力や優位性を持たせることも可能になります。テープストレージによるバックアップシステムを置き換えた事例もあります。
オブジェクトストレージを最後のコピーとして活用すれば、「3-2-1ルール」と呼ばれるバップアップ慣例を廃止できます。また、故障対応に掛かる時間や費用の節約にもつながります。これによって運用費用の削減が可能です。メインストリームのストレージを拡張より安価なため、データティアリング(階層化)を検討すれば、費用を抑えた容量の拡張が可能になります。
そして災害対策です。オブジェクトストレージ同士のリプリケーションでもいいですが、イレイジャーコーディングを活用することで「地域分散(3GEO)」が可能です。上図の3台のラックは同じ場所にある必要はありません。3カ所に分散しておき、ネットワークでつなげば単一のオブジェクトストレージとして動作します。オブジェクトは均等に分割・分散配置されるので、1カ所が災害で使えなくても残りの2カ所からデータを自動修復して使い続けられるようにECポリシーを設定しておけば、リプリケーションサイトを設置したり、バックアップコピーを復元したりする必要がなくなります。
さらに、社内サーバやクライアントPCのバックアップや財務会計データまでを含めて、統合的なストレージ領域としてプライベートクラウドで活用するとさらに有効的です。S3プロトコルだけではなく、 NASプロトコルもサポートしているので、イレイジャーコーディングのメリットを享受しつつNASとしての利用も可能です。
企業におけるストレージ管理の課題を解決しつつ、オンプレミス環境でも拡張性が高くコスト効率の良いシステムを構築できます。アクティブアーカイブをパブリッククラウドで行うと、データ転送料なども含めて割高になる可能性があります。また、データを手元に戻すことでTCO(総保有コスト)の改善も期待できます。オブジェクトストレージがプライベートクラウドへの回帰を推進すると確信します。
また、各種ストレージシステムへのデータの配置や管理が面倒に感じるのも当然です。メインストリームストレージ、アクティブアーカイブ、パブリッククラウド間のデータの流れを管理するデジタル資産管理ツールとの相互認証が取られていることも重要です。先に例を上げた、ウエスタンデジタルのActiveScaleでは、下図のように各分野に応じて各種管理ソフトとの相互認証が取られています。データの移動を減らすという基本に忠実な方法が一番です。またはルール化して徹底することも大切です。適切なツールの導入が役立ちます。
サーバ、ディスクアレイ、ソフトウェアで組み上げていたオブジェクトストレージが、ネットワークをつなぐだけで簡単に設置できます。ECポリシーに合わせたハードウェア構成の設定不要で、電源・冷却系統の冗長系にも配慮され、メンテナンスパックも付加できます。このようなアプライアンスの存在が、オンプレミスでの導入ハードルを下げ、普及期に入っていることを示しています。次回は、導入事例を詳しく見ていきます。

- 山本慎一
- HGSTジャパン ジャパンセールスディレクター
- データストレージ技術とソリューションを提供するWestern Digitalにおいて、オブジェクトストレージを中心としたデータセンターソリューションのビジネス開発を主に日本で推進。IBM、日立、Western Digitalなど、30年以上にわたりストレージ業界に従事。コンシューマー製品からエンタープライズソリューションまで、幅広い分野において製品開発、ビジネス開発、マーケテイングなどの経験を持つ。