競争はデジタルから顧客体験へ--SAPが新ブランド「C/4HANA」が描く次のCRM

末岡洋子

2018-10-16 06:00

 SAPは10月10~11日、スペインのバルセロナで「SAP Customer Experience LIVE」を開催した。CRM(顧客関係管理)基盤として展開した「Hybris」ブランドを「SAP Customer Experience」に改称して4カ月が経ち、新事業部を率いるAlex Atzberger氏は、マーケティングやコマースなどをスイートにした「C/4HANA」を「次の成長エンジンにする」と意気込む。

競争はデジタルから顧客体験へ

SAPは「C/4HANAでこれを実現する」と続けるAlex Atzberger氏
SAPは「C/4HANAでこれを実現する」と続けるAlex Atzberger氏

 同社は、6月に開催した年次イベント「SAPPHIRE NOW」で、フロントオフィスの新ブランド「SAP Customer Experience」を発表した。これにより、2013年の買収以来継続してきたHybrisのブランドを廃止し、それまでHybrisブランドのもとで展開してきたコマース、マーケティングなどの製品は「C/4HANA」とした。これに合わせてHybrisの年次イベント「Hybris LIVE」も名称を変え、今回初めてSAP Customer Experience LIVEとして開催された。

 イベントの名称だけではなく、その“顔”もこれまでHybrisを率いてきたCarsten Thoma氏に代わり、2018年初めにCustomer Experienceの最高経営責任者(CEO)に就任したAtzberger氏となった。Atzberger氏は10日、初のステージで約4000人を前に、同社が描く顧客体験(Customer Experience)について語った。

 Atzberger氏は、まず企業の競争原理が変わりつつあると指摘する。これまで「デジタルネイティブ 対 既存企業」だったのに対し、「顧客体験が競争を分けている」という。「デジタルは差別化ではなく、平等にしてくれるもの。差別化は顧客体験になった」と語った。

 Atzberger氏によると、顧客体験のリーダー企業には以下の3つの特徴があるという。

  1. 速く動く
  2. 接続された顧客ジャーニー
  3. 信頼の構築

5つのクラウドで構成される「C/4HANA」

 C/4HANAは、HANAをベースとした第4世代の顧客体験の略で、「SAP Customer Data Cloud」「SAP Sales Cloud」「SAP Commerce Cloud」「SAP Marketing Cloud」「SAP Service Cloud」の5つのクラウドと、それに7つの属性(喜びを与えるユーザー体験、エンドツーエンドのプロセス、ビジネスとマスターデータサービス、スイートインテリジェンスとアナリティクス、プラットフォームサービス、拡張性と統合、オープンなエコシステム)で構成される。

C/4HANAは5つのクラウド、7つの特徴を持つ
C/4HANAは5つのクラウド、7つの特徴を持つ

 Atzberger氏は、これらをスイートにすることで、「ハーモナイズされたユーザー体験、共通のデータモデル、拡張性を備えたプラットフォームを実現できる」と主張する。例えば、2019年に創業300年を迎えるオランダのビール会社Bavaria Brewery(Swinkels Family Brewers)は、新しい市場開拓として、エチオピアにビール醸造所を開いた。住所表記が統一されていない中、iPadでSales Cloudを利用して位置情報をベースとした営業活動を展開しているという。

 Bavaria BreweryとSAPの関係は20年来だが、今回はデザインシンキングを行い、新しいビールの提供方法を考えた。その結果、アプリを使ったソリューションを考案したという。顧客が店に入ると店員がその顧客のプロファイルを見て、履歴に基づいてお勧めのビールを提供する。顧客は、気に入ればアプリからそのビールを購入する。さらに顧客は、購入で得たロイヤリティポイントをBavaria Breweryの慈善活動に利用できるというものだ。

 同社の創業者から7世代目に当たり、家族経営ながら最高イノベーション責任者として革新を図るAnke Abbenhuis-Swinkels氏は、「C/4HANAにより顧客とのエンゲージを強め、さらには自分たちの目的とも連携できる」という。

 具体的には、上記の(1)速く動く――では、オープンなプラットフォーム、クラウド、顧客最優先の3つをキーワードに挙げる。オープンでは、SAPのPaaS「SAP Cloud Platform」が重要な役割を果たす。C/4HANAとS/4HANAやERP(基幹業務システム)との統合に加え、C/4HANA向けの拡張ではマイクロサービス「Kyma」を展開する。Kymaは、7月の「Google Next San Francisco」で発表したオープンソースプロジェクトで、Kubernetesをベースとし、クラウドネイティブな業務アプリケーションを構築できる。この日はKymaの商用版として、「SAP Cloud Platform Extension Factory」を発表した。

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