コンサルティング現場のカラクリ

ITの基本戦略を設定(5):日本のIT部門は基幹系を中心とすべきなのか?

宮本認(ビズオース )

2018-12-15 07:00

(本記事はBizauthが提供する「BA BLOG」から転載、編集しています)

 まずは、IT部門が最も重視する基幹系システムについて考えたい。そもそも、基幹系というのは、企業経営に貢献するためのシステムである。この点、日本企業は誤解をしていることが多いような気がする。以降で、その誤解について説明していこう。

 企業経営への貢献というのは、その会社がマネジメントに対してどれくらいの強度を持って取り組んでいるかにかかっている。「マネジメントの強度」とは、予算と業績を管理する強さだ。言うなれば、財務経理部門の強さを示す。言い方を変えれば、財務経理部門が利益を生み出す源泉と考えられているか、単なる集計部門と考えられているかだ。

 前回記事でも触れたが、財閥系にはそれぞれ経営の特徴があり、同じ総合商社であっても主計中心に経営を組み立てるところもあれば、事業部門中心に組み立てるところもある。この違いは、情報システムの存在意義にとって大きな分岐点になる。すなわち、IT部門が向くべき方向とシステム化のアプローチを決定する。要は、IT部門が誰を向いて働くかを決める。

 海外企業を例に取ると分かりやすいので、海外企業を例に解説したい。海外企業では、最高財務責任者(CFO)は会社のナンバー2である。彼らは非常に強い権力を持っている。では、CFOがやりたいことは何か。それは、グループ全体の細かい業績をリアルタイムに把握し、業績向上のための課題を発見することにある。だから、統合基幹業務システム(ERP)に代表される企業全体の業績データを管理できるシステムをグループ共通で導入し、パイプライン(営業進行案件)や受注残数、経費の消費状況などを細かく解析したがる。CFOのスタッフ、すなわち解析部隊は結構な数がいることが多い。

 この解析結果を受けて、CFOは最高経営責任者(CEO)に「受注を急げ」とか「経費を使うな」といった進言をして業績を調整する。CEOは株価を上げることを第一に考えている。だから、毎日、業績を上げるための進言をしてくれるCFOの存在は欠かせない。CFOがナンバー2であるのは理由があるのだ。彼らのグループ全体におよぶリアルタイムで詳細な解析結果によって、業績は大きく左右される。だから、こうした進言を整えるためのERPや、集計分析するためのダッシュボードの導入には、非常に大きな予算が付く。

 また、導入に当たっては、現場の利便性などはほとんど考慮されない。ERPで情報収集することでCFOが役立つと思ったデータは、各現場では有無を言わさず「入れなさい」と言われる。文句や抵抗をしようものなら雇用は保証されない。そういう恐怖感は少なくとも持たせる。こういうシステム導入アプローチを採る。

 すなわち、財務経理部門が強い企業であれば、基本的にITは経営を見て働くこととなる。経営に必要なタイミングで、必要な粒度と鮮度の情報を提供して経営判断を支える役割こそを、まず第一義的に達成することとなる。そう考えると、ITは共通/集中的でなければならないし、IT組織も中央集権的に構築されなければならない。要は、ユーザーは現場ではないのだ。

 逆に、財務経理部門がそう強くはない企業であれば、大切なのは現場になる。主力な現場を定め、現場が最大のパフォーマンスを発揮できるようにしていく。大切なのは、拠点、顧客、取引先ごとの仕事や条件、業務プロセスの違いに精通することだ。

 そして、何か課題やトラブルが起きたとき、現場にとって、顧客にとって、取引先にとってその場を速やかに何とかすることが大切になる。現場の仕事を止めないこと、現場が不快感を感じないような業務にすることが大切である。よって、ITは個別/分散傾向が強まるし、IT組織も現場支援型で分権的に作られていくべきである。

 こうした現場重視の傾向が強い企業では、上述のような海外企業のようなCEO&CFO主導の経営は「憧れ」に過ぎない。例え、プロ経営者がやってきて、上述のような仕組みを求めたとしても、経営者より上位である「理念」のレベルで相いれないこととなる。

 今、日本においては、プロ経営者が試練のときを迎えているが、財務経理主導で経営を行う軸が変わっていないことがその要因ではないかと筆者は分析している。そうした場合、IT部門は、理念に基づいて行動するか、プロ経営者に寄り添って、理念自体を変更するか、決断をしなければならない。マネジメントの重心とは、それくらい重大な問題なのだ。

 言うなれば、多くの日本企業で経営は強くないのだ。誤解を恐れず言えば、日本企業の経営者は株価よりも大切なものが、やっぱりある。株価が最も重要であれば、上記のようなスタイルに変えざるを得ない。また、日本の経営者になれるような聡明で有能な人が、本当に株価を上げることのみに専念していれば、日本の株式市場のこの20数年間に及ぶ低迷は、起こり得ないと筆者は考える。

 これは良い悪いの問題ではない。ハーバード大学経営大学院教授の竹内弘高氏は、「Wise Leader」というリーダー像を唱えているが、日本のリーダーにはこのWise Leaderが多いそうだ。従業員により崇高な存在意義を示し、誇りとやる気を引き出し、社会的に見て正しい選択をしようとする経営者が多いのだろう。

 昔、外国人の上司と酒を飲みながら話したことがあるが、日本企業の経営者は「正しい意思決定をしようとする」のに対し、海外企業の経営者は「正しく意思決定しようとする」という違いがあるそうだ。正しいとは「Wise」な決定をしようとするということだ。一方、正しくとは「Logical」にということだろう。

 欧米の経営者は、株主、すなわち大金持ちと年金運用をしている全国民に責任を負っている。一方、日本の経営者は、従業員に責任を負う比率が高い。これは、社会の違いであって、経営者の能力の違いではない。しかし、情報システムと大きな関係を持つマネジメントの強度の違いを生む、そういう現実の中でITの基本戦略を立てねばならない。

宮本認(みやもと・みとむ)
ビズオース マネージング ディレクター
大手外資系コンサルティングファーム、大手SIer、大手外資系リサーチファームを経て現職。17業種のNo.1/No.2企業に対するコンサルティング実績を持つ。金融業、流通業、サービス業を中心に、IT戦略の立案、デジタル戦略の立案、情報システム部門改革、デジタル事業の立ち上げ支援を行う。

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