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ITの基本戦略を設定(4):経営と向き合うために地政学的発想を持つ

宮本認(ビズオース )

2018-12-01 07:00

(本記事はBizauthが提供する「BA BLOG」から転載、編集しています)

 それぞれのIT部門が独自のIT理念、すなわちIT基本戦略を持つことが重要になるのは、全部に秀でることはできないという現実があるからだ。資金と人材には限度がある。欧米の企業でも同じだろうが、現代の欧米企業はいろいろな意味で裕福である。最高情報責任者(CIO)の報酬も非常に高いし、もうかっている企業は投資余力も大きい。逆の言い方をすれば、欧米企業の場合はもうからなければさっさと身売りされてしまい、日本企業のように爪に火をともす状況になることは少ない。

 企業の個性を重視し、経営を長らえることを最終局面まで模索する日本においては、何に焦点を当てるかを間違えるわけにはいかない。特にこれからの時代、ITはますます重要性を増し、コストも増大することになる。日本企業のIT部門にとっては、何をミッションに持つかが極めて重要になるのだ。

 ここで、参考にしてほしい発想法がある。地政学だ。最近、ニュースや新聞で「地政学的リスク」という言葉が使われているので、知っている人も多いだろう。インターネットなどで調べてみると、しっかりとした学問領域ではなく、政治外交や軍事関連において研究されてきた戦略や理論、考え方である。

 筆者がこの言葉を知ったのは大学生の時である。筆者は学生時代、ある体育会に属していたのだが、その監督が「地政学を勉強しなさい」としばしば話していた。そこで、倉前盛道氏の著書『ゲオポリティク入門』を読んだ覚えがある。もう手元にないのだが、「大陸国家は大陸国家なりの戦略があり、それに即した軍事的装備と戦術を身に付けるべきである。海洋国家は海洋国家なりの戦略があり、それに即した軍事的装備と戦術を身に付けるべきである」というようなことが書いてあったと記憶している。ものすごく端的に言ってしまえば、自分の与えられた地理的条件に即して戦略を立て、その戦略に即した装備を備えろということになるだろう。非常に当たり前の話である。

 専門家ではないので、解釈が間違っている点があれば、ご容赦いただきたいが、大陸国家にせよ、海洋国家にせよ、自分の守るべきものがあり、それを守る、あるいは拡大するために周辺に出ていく。大陸国家の場合には、自分自身の中心を“ハートランド”と呼び、その周辺へ領域を広げるのが基本戦略である。こうした戦略を実現するために、素早い陸上戦闘力が必要となるという。昔で言えば騎馬部隊であり、現代では戦車やヘリコプターである。

 あえてこの話をしたのは、企業には中心に据えるものと、社会に広く打って出るものがあると考えているからだ。各企業が持つこうした特徴は、当たり前に聞こえるだろうが、ITを考える上でも外すことのできないものであるべきだ。

 例えば、日本には財閥系の企業群がある。今でも横のつながりを持っているようだ。不思議なのだが、財閥系の企業は、業界が違っても同じように経営していることが多いのだ。ある財閥では、主計部門といわれる経営管理部門が非常に強い。一方、ある財閥では、各事業部門の独立経営の考え方が非常に強い。こうした経営のやり方の違いが、「重心の違い」というわけだ。

 こうした違いは、基幹系システムの刷新プロジェクトにおいても、全く違うアプローチになる。経営管理部門が非常に強い財閥系では、基幹系の更改は業績管理の高度化が目的だった。一方、各事業部門が強い財閥系では、業務改革が目的となっていた。目的とアプローチが異なれば、同じ基幹系であっても機能の細部は変わってくる。その違いをどう要件として実現するかが、IT部門には手腕として問われることは言うまでもない。

 以前、証券会社の合併を担当したことがある。日本における合併、特に国内企業同士の合併は、資本の論理による戦略的な手段ではなく、単に“口減らし”となるケースがまだまだある。筆者が経験したのは、上位の親会社主導で決まった合併だった。望まぬ合併であるために、準備作業は壮絶だった。事務の封筒の形、帳票のタイトル、席の配置、合併祝賀パーティの会場など、ありとあらゆることで合併する企業同士がケンカをするのだ。店番号を決める際のもめ具合は、今でも鮮明に憶えている。

 両社合併におけるハイライトは、営業スタイルの違いのギャップを埋めることだった。一方は、営業企画が強く、営業企画が決めた商品、売り方、顧客ターゲットに標準的な営業展開をし、そこそこの成績を上げていくというもの。言うなれば、平均的な営業活動を底上げするスタイルだった。そのためのシステムは、SFA(営業支援システム)の考え方に近く、PDCAを高速に回していくような作りだった。

 もう片方の営業スタイルは、営業部員のやる気を最重要として個々の創意工夫を促し、本部は各部員が仕事をしやすいように必要な情報や資料を提供して支援するというもの。言うなれば、トップ営業をどこまでも伸ばす仕組みだ。そのシステムは、ナレッジマネジメントを充実させる方向に発展していた。

 どちらも正しいのであるが、考え方が全く違っていた。ここでは営業の組み立てと呼びたいのだが、営業のどこに中心をおいて、組織やシステムをどう整備するかが、全く逆の発想だったのだ。

 こうした機能の組み立ての違いは、システムの機能にも影響を与える。それも根本から変わってくる。この証券会社の例はあくまでもサンプルだ。日本企業には、同業でありながら発想や論理が全く異なり、機能の整備も違うことが非常に多い。海洋国家における陸軍と、大陸国家における陸軍というもので指すものが全く違ってくるように、同じ営業といえども機能の性格が全く違うことがしばしばあるのが、日本企業なのだ。

 余談だが、こうしたマネジメントの重心の違い、機能の組み立ての違いが顕著に残るのは、労働市場の流動性が低いからだと筆者は思っている。労働市場の流動性が高い社会であるなら、こうした違いは容認できない。採用した人材が、即戦力として力を発揮できるわけがない。日本企業は、労働市場の流動性が低いために、純粋培養が長い時間をかけて行われ、独自のマネジメントと機能の組み立てを確立して生きている。

 つまり、日本企業の経営とプロセスは、独自性が非常に高いということである。おそらく、CIOやIT部門のトップであれば知っているはずだが、一応、この点にも触れておきたい。企業経営の重心は、大きく言えば、マネジメントの強度と、コア機能の組み立てにある。それは前述した。

 情報システムとは、究極のところ、マネジメントへの貢献と、コア機能の強化に役立つことを目指して存在している。マネジメントとは、経営で言えば、縦のライン、すなわち経営、本部長、管理職、担当という組織の縦の流れを指している。レポートラインと言ってもいいかもしれない。それに対して、機能とは横のライン、すなわち営業から、生産、物流、調達といった機能ごとのつながりを示している。バリューチェーンだ。

 マネジメントへの貢献とコア機能の強化という情報システムの命題を、どちらにどのように役立つようにするか。当然、全部を完璧にという発想は当然ある。これは、トップ企業だけが許されることだろう。企業としての個性や従業員の士気を何よりも大切にし、そこそこ稼いで、企業の名前を次世代につないでいこうという価値観が極めて強い日本では、なかなか厳しい。これは、ここまでにも述べてきた。

 どちらにどのように役立つかというのは理念的なことなのだが、「IT基本戦略」という言い方をしているのには理由がある。日本企業には、特に「選択と集中」が必要だと思っている。これもこれまで述べてきた。全部はできないのだ。あきらめないといけないし、経営層やユーザー部門に「できない」と頭を下げなければならないこともある。

 しかし、この選択は間違ってはいけない。それが苦悩の第一歩になってしまうからだ。次回からは、その選択をするときの原則を述べていく。何よりも大切なのは、最初のボタンを掛け違えないということだ。これは最も侵してはならない過ちだ。日本企業のIT部門は、これを自分中心で決めてしまう傾向があるのだ。日本のIT部門が持つべき考え方について詳しく述べていきたい。

宮本認(みやもと・みとむ)
ビズオース マネージング ディレクター
大手外資系コンサルティングファーム、大手SIer、大手外資系リサーチファームを経て現職。17業種のNo.1/No.2企業に対するコンサルティング実績を持つ。金融業、流通業、サービス業を中心に、IT戦略の立案、デジタル戦略の立案、情報システム部門改革、デジタル事業の立ち上げ支援を行う。

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