ガートナー ジャパンは12月11日、クラウド推進に当たって留意すべきトレンドを発表した。これは、ガートナーに寄せられる相談や問い合わせをベースに作成されたもので、クラウドを利用するに当たっての進め方や議論の内容にいまだに誤解が見られ、企業が混乱している様子がうかがえるという。
- 「本物のクラウド」であっても丸投げしようとし、想定外の見積もり金額を提示される
- クラウド化することで絶対にコストを削減できると経営者が信じ、クラウドを推進しようとしている
- 担当者がアカウントを取得するまでに3年かかっている
- 現場エンジニアが自費で書籍を購入したりトレーニングを受講したりしている
- サービス部品レベルの概念実証(POC、という名の評価)を行おうとしている
- 基幹系システムをクラウド化できるか、そのメリットは何か、といった質問を今でも繰り返している
- クラウド化でサーバレスやコンテナ/マイクロサービスが使えないかといった議論をしている
- モード1のクラウド化の議論だけで、モード2やデジタルの議論をほとんどしていない
ガートナーでは、(1)の「本物のクラウドであっても丸投げしようとし、想定外の見積もり金額を提示される」について、金融機関がAmazon Web Services(AWS)の利用を前提に業務システムのクラウド化の提案をシステムインテグレーター(SIer)に依頼したところ、数百人月に相当する数億円の見積りを提示されるケースを引き合いに解説した。
この金融機関のケースでは、SIerは悪意で提示したわけではないとガートナーでは見ている。金融分野のユーザーは従来通り高いシステム要件を求めていると想定し、モード1(System of Record:SoR)のやり方で「しっかり作ってきっちり運用」、つまり松竹梅の「松」型の提案した。
要件を「松」と仮定し、クラウド化プロジェクトの進め方においても、ウォーターフォール型、すなわち要件定義・概要設計・詳細設計・実装・テスト・運用という一般の業務システムでは当たり前の工程を基に工数見積もりが行われている、と解説する。
ガートナーでは、クラウドは変わることを前提としたもので、「99.999%以上の稼働率を絶対に求める」「絶対に変わってはならない」というシステムでは適切な選択肢ではないとした。
従って、SIerに丸投げすれば、AWSのような「本物のクラウド」であっても、こうした提案を受けることになるとユーザーは覚悟しておく必要があるという。そして、ユーザー企業が「クラウド化」を進める際には、ITベンダーやSIerに丸投げせず、自動車と同様にクラウドを「自分で運転」することにより、そのリアリティを理解する努力をする必要があるとした。
また、(8)の「モード1のクラウド化の議論だけで、モード2やデジタルの議論をほとんどしていない」については、ユーザーの相談内容として、「モード2(System of Engagement:SoE)やデジタルにはビジネス部門が取り組んでいるようなので、IT部門はモード1に集中している」と述べる企業や、「モード2にはビジネス主導で取り組むことが確実であり、ビジネス部門は既に自分たちでAWSなどを試している。今後もIT部門はモード1中心となるが、これでよいのか」といったものが寄せられることを挙げた。
ガートナーでは、クラウドの議論をモード1に属する「既存業務システムのクラウド化」と、モード2に属する「デジタルを活用した新しいビジネスアーキテクチャの策定と推進」に明確に分ける、バイモーダルの考え方で捉えるべきだとした。
その上で、クラウドネイティブな環境では、従来型のモード1のシステムに付きものであった「完璧なシステムを作り運用する」といった発想は成り立たず、サービス部品を駆使しながらビジネスサービスの「継続的改善」をアジャイルに行うための、卓越したスキルが求められるようになると指摘する。
そして、こうしたスキルの獲得は想像以上に困難で、5年以上の時間を要するという。クラウドネイティブな環境自体が今後さらに進化していくなか、企業には、こうした変化にも着実にキャッチアップするための機動力が求められるようになるとした。
ガートナーでは、この2つのケースの解説を踏まえた上で、クラウドの推進はマストであり、その重みをユーザー企業、特に経営者は十分に認識し、「人材投資」を機軸に必要な対策を早期に講じる必要があると指摘する。
またユーザー企業は、クラウドが「利用者の自己責任を原則とする標準サービス」であることを理解すべきだという。クラウドは使えるのか、セキュリティは大丈夫かといった議論はもとより、クラウドベンダーに提案要請書(RFP)を出そうとしたり、全ての損害賠償をクラウドサービス事業者に負わせようと契約でもめたりする例が今でも散見されているが、そもそもこうしたことが起きるのは、ユーザーがクラウドを適切に理解していないことが原因だとした。