Inti De Ceukelaire氏は、米国の有名なヘヴィメタルバンドである「Metallica」をハッキングしたことがある。
特に大きな理由があったわけでも、悪意があったわけでもない。De Ceukelaire氏はただのMetallicaファンだった。以前からバンドをやりたいと思っていたというが、実際にはやったことがない。「音楽のスキルがなかった」からだ。
「しかし、ハッキングのスキルはあった」
そう言う同氏は、Metallicaの注意を引こうとしてハッキングを行った。Metallicaに身代金を要求したわけではない。De Ceukelaire氏にハッキングの具体的な方法や、「Metallicaをハッキングした」という発言の意味を尋ねてみたが、答えは返ってこなかった。これについては同氏の言うことを信じるほかはない。同氏は、筆者にその情報を明かせば、Metallicaが別のハッキングを受ける可能性が出てくると考えている。悪人に脆弱性の情報が渡れば、Metallicaがトラブルに陥るかもしれない。
幸い、De Ceukelaire氏は善人だった。
De Ceukelaire氏はホワイトハットハッカーの1人であり、オンラインセキュリティに関する深い知識によって、企業をハッキングして生計を立てている専門家だ。同氏は日々、ウェブサイトやサービスなど、あらゆるものに潜む潜在的な脆弱性を探し回っている。同氏は脆弱性発見報奨金プログラムのおかげで、十分な報酬を得ている。
最近では、多くのIT企業が脆弱性発見報奨金プログラムを設けている。GoogleやAppleがこの制度を設けているほか、Facebookも2018年4月から報奨金プログラムをスタートさせている。この制度は、企業がハッカーに報酬を提供するというものだ。ハッカーがサービスやウェブサイトの脆弱性や潜在的な攻撃方法を発見し、それを企業に知らせれば、その作業に対して金銭的な報酬が支払われる。一部のハッカーは、この制度で1年に6桁ドルの収入を得ている。開拓時代の米国西部にいたカウボーイのようなものだ。
しかし2018年のDe Ceukelaire氏は、むしろロックスターのような体験をした。
同氏はMetallicaをハッキングして、金銭的な報酬を得たわけではなかった。もっとはるかに価値のあるものを受け取ったのだ。脆弱性を発見した同氏は、Metallicaに電子メールを送り、その返事を怯えながら待った(「彼らはこちらを提訴して、一生監獄に入れることもできた」と同氏は言う)。
返事はほとんど直ちに返ってきた。しかも、それはよい返事だった。De Ceukelaire氏は、Metallicaの次のコンサートのチケットを手に入れた。それは人生最高の夜だった。同氏はバックステージに招待され、キーボードにサインをもらった。
その後Metallicaは、同氏をステージ上に招待した。同氏はバックボーカルとしてMetallicaの演奏に合わせて歌った。今日に至るまで、同氏は実際にはマイクのスイッチは入っていなかったと考えている。同氏には音楽のスキルがないからだ。しかし同氏にはハッキングのスキルがある。
Inti De Ceukelaire氏のハッキングはステージ上でのMetallicaとの共演に繋がった。