マーケティングオートメーション(MA)ツールの活用方法について解説してきた本連載。今回は、実際にMAツールを導入し、活用している構造計画研究所 すまいIoT推進部の塚本遼太氏にお話を伺いました。
同社は、建物の構造のシミュレーションをはじめ、自然災害、製造業のプロセス改善、社会シミュレーションなど、さまざまな分野の課題解決や研究開発を行っています。しかし、塚本氏が担当するのは、同社の既存ビジネスとはモデルが異なる新しいサービス「RemoteLOCK」の販売でした。塚本氏は、どのようにこの新規事業を軌道に載せたのでしょうか。
新規事業で新規顧客開拓--ウェブからの集客にはMAツールが必要だった
--RemoteLOCKはどんなサービスですか?
塚本氏:米国で生まれた鍵の遠隔管理システムです。テンキー式の装置を取り付ければ、物理キーが不要でクラウドから入室管理(解錠施錠や期間設定)ができます。宿泊予約サイトのAirbnbをはじめ、宿泊施設や貸し会議室・オフィスなどで利用されています。カードキーの導入に比べるとコストが桁違いに安いのが大きなメリットです。
面白い事例としては、奈良県の無人の書店での利用があります。来店者は会員登録が必要で、入退室の管理はRemoteLOCKで行い、キャッシュレスで本を買って帰るという仕組みです。鍵という文脈よりも、こうしたビジネスの仕組みを支えるシステムとして、導入を検討されている方が多いです。
--MAツールの導入を検討することになったきっかけは?
塚本氏:RemoteLOCKは新規事業であり、ターゲットが構造計画研究所の既存顧客とも異なるため、新たに顧客開拓をする必要がありました。サービスの特性から、ウェブでの集客、資料請求は重要なチャネルとして捉えていました。しかし、アクセス解析を見ても、ユーザー一人ひとりの動きや検討状況は分かりませんし、資料請求をした人にどのタイミングで電話すべきなのか、なかなかつかめずにいました。そんな時、MAツールなら課題を解決できるのではと検討するようになりました。
ウェブサイトを「HubSpot」で構築--MAツールありきの施策を実施
--社内の他の部署ではMAツールを導入していましたか?
塚本氏:別のチームでは、SFA&CRMツール「Salesforce」や名刺管理ツール「Sansan」も使っています。これらは提案型の営業にマッチするツールですが、RemoteLOCKでやりたいこととは合わないなと思っていました。
複数のMAツールを検討したところ、集客から顧客化まで広い範囲で使える統合ツールであること、コストが比較的安価な「HubSpot」を選定しました。米国のRemoteLOCKの開発元からの推薦がありましたし、パートナー企業による導入支援があることも決め手になりました。
--MAツールの導入はどういったことから始めましたか?
塚本氏:最初にウェブサイトの構築をやりました。既に別のCMSで作成したウェブサイトはありましたが、HubSpotのCMS機能でウェブサイトも管理できるため、全てHubSpotで作った方がその後の運用もしやすいだろうと考えました。その次には、別のツールで管理していたリード情報をHubSpotに移行しました。
--導入時には、どのようなことを実施されましたか?
塚本氏:ペルソナの設計をやりました。また、流入、コンバージョンなどの重要業績評価指標(KPI)を設定しました。新しいサービスということもあり、KPIはどのくらいの目標値が妥当なのか我々では検討がつかなかったのですが、パートナーのアドバイスをもとに業界平均値などを参考に設定しました。
集客は広告、ブログ、SNSをフル活用--資料請求でリード獲得
--集客、獲得、選定、接触、営業のステップごとに実施している施策を教えてください。まず、集客ではどんなことをしていますか?
塚本氏:集客では、オーガニック検索からの集客としてブログを活用しており、検索ボリュームやキーワードを見て、記事を作成しています。SNSの運用はできる範囲でブログの紹介などを行っています。
広告は、媒体広告、PPC(Pay Per Click:ペイパークリック)広告、リスティング広告、SNS広告など効果を検証しながらやっています。展示会への出展も継続して行っています。広告のキーワードやブログでも、お客さまと対面して話したときの質問や要望などを反映させるようにしています。
--集客には、コストをかけて露出を増やしているのですね。獲得以降のステップではいかがでしょうか。
塚本氏:リード獲得のコンテンツとして、検討レベル別に2段階に分けて資料を用意しています。一つはダウンロード資料で、RemoteLOCKの概要を紹介する資料です。もう一つは資料請求でこちらは導入を検討している人向けの詳細のコンテンツです。
獲得したリードについては、業界規模や流入経路などを加味して選別しています。それと合わせて、オンラインでの行動の頻度をスコアリングして、ホットかどうかを判断しています。
ナーチャリングは、メルマガとブログを活用していますが、MQL(Marketing Qualified Lead:製品やサービスに関心の高い見込み客)からSQL(Sales Qualified Lead:営業が接触する価値のある見込み客)にパッと上る人もいれば、時間をかけてゆっくり上る人もいます。どちらにせよ、フォローのタイミングを逃してしまうとうまくいかないので、逃してしまったらスコアを下げています。
SQLか、MQLかの判断は、リードが温まっているかということと、ビジネスとしての可能性があるかは、必ずしも一致しないので、別途判断するようにしています。
よいタイミングで接触することで顧客化をうながす
--接触はどういうタイミングで実施していますか?
塚本氏:資料請求などがあったら、初期接触としてまず連絡をします。もう一つがホットになったタイミングでの接触ですね。経験上、製品の特性や導入上必要なことなどについて理解を深めている人の方がスムーズに顧客化する傾向があるので、よいタイミングを狙って接触するようにしています。
--よいタイミングで接触して、成功した例などはありますか?
塚本氏:導入当初のリードの数が少なかったときは、ウェブサイトの訪問を見張っていたときもありました。ユーザーがウェブサイトに再訪したタイミングで電話をすると、「今、まさに検討していたところですよ!」と言われたこともあります。タイミングよく連絡すれば、顧客化しやすいですね。MAツールを導入する前は、このタイミングが分からなかったので、導入後はかなり精度が上がったと思います。