中小企業がIoTを使いこなすまで--東京都が進める支援事業の狙い

國谷武史 (編集部) 2019年02月13日 06時00分

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 東京都は、2018年度から5年間の「中小企業のIoT化支援事業」を推進している。中小企業を対象に、IoTの啓発にとどまらず“使いこなす”までが目標である。その取り組みについて都立産業技術研究センターに話を聞いた。

 “モノのインターネット”と訳されるIoTは、ネットワークを介したモノにまつわるデータの活用を通じて課題を解決する、あるいは新しい価値を創出する概念であり、昨今では規模を問わずあらゆる業種・業界の企業や組織がIoTの活用を目指している。ただ、その概念の大きさと広さ故に、概念実証(PoC)などは大規模な企業や組織、ベンチャーや先進的な企業が実施するものと捉えている中小企業は少なくないかもしれない。

 同事業を担当するプロジェクト事業推進部 IoT開発セクター 特命担当部長の櫻井政考氏は、「ここ数年でIoTが話題になり、中小企業でも関心は高まっているが、日々の多忙な業務では中々取り組めないでいる。他の自治体に比べて東京都のIoT支援事業は後発だからこそ、網羅的で実行性のある施策を目指した」と話す。

 中小企業のIoT化支援事業で都は、「人材育成」「IoT研究会」「IoTテストベッド」「公募事業」の4本柱を掲げ、事業化と実装支援の2つの観点から中小企業を支援している。事業化では、IoT共同研究開発、IoTソリューション研究、AI(人工知能)活用実証型研究の3分野で、2017年度に8件、2018年度に10件の公募型共同事業プロジェクトを採択しており、1テーマにつき500万(1年)~3000万円(2年もしくは3年)を上限として助成する。2017年度はIoTの要素技術、2018年度は活用を目的としたテーマが採択されている。

東京都の「中小企業のIoT化支援事業」の枠組み(出典:東京都立産業技術研究センター)
東京都の「中小企業のIoT化支援事業」の枠組み(出典:東京都立産業技術研究センター)

 一方、実装支援策の中心となるのが「人材育成」「IoT研究会」「IoTテストベッド」だ。都では「東京都IoT研究会」を立ち上げ、2019年1月末時点で製造業やサービス業を中心に326社・386人が参加する。

 研究会では、センサキットなどを使ってIoTの概論やビジネスモデル、動向からハードウェアやソフトウェア、システムの技術や構成、通信やセキュリティ技術、データの蓄積や処理を題材にした育成プログラムの講習会を開くほか、現場改善や製造業、観光、農業のワーキンググループの活動も展開。各分野に関係する企業や組織の担当者らがIoT活用に向けた課題や方策について技術やビジネスの観点から活発な意見交換とPoCなどに取り組んでいるという。

 都立産業技術研究センターは2018年10月、こうした活動の拠点となる「IoTテストベッド」を、“お台場”がある臨海エリアのテレコムセンタービル内に開設した。IoTの活用イメージを11のテーマで紹介するエリアや基本技術を学ぶエリア、クラウド型とエッジ型のシステム構成による利用シーンの体験エリア、実用化済みの事例エリアと、企業が上市前の製品やサービスを検証する「試験評価室」で構成されている。

 例えば、基本技術を学ぶエリアでは、複数のセンサを実際に稼働させて環境の様子(二酸化炭素濃度や照度など)を測定、可視化し、それらの情報を転送するネットワーク技術の規格や構成、データの種類(構造化/非構造化)とデータの蓄積方法(データベース構造)、解析手法といった全体像を解説している。

 またシステム構成による利用シーンの体験エリアでは、生産ラインの稼働状況をセンサで監視し、部品が既定通りに搬送されない様子を可視化するシナリオで、エッジとクラウドの仕組みの違いを紹介している。エッジの仕組みにはセンサ情報を分析、可視化するツールにフリーソフトを利用し、「中小企業でも安価で手軽に設備監視ができることを知ってもらう」(櫻井氏)という。クラウドの仕組みは、センサ情報をMicrosoft Azureに集約し、Power BIで分析、可視化するという構成であり、エッジの簡易な仕組みを工場全体に展開するようなシーンをイメージしている。

 実用化済みの事例では、エアポンプに振動センサを後から実装してIoTゲートウェイでセンサ情報を転送したり、杭型センサの傾きを検知して土砂災害を事前に予測したりする防災システムのデモのほか、市販のセンサキットで無人受付システムを構築する様子も紹介する。

 試験評価室では、10Gbps超の大容量データ転送や無線の伝搬特定や妨害波耐性、波形・ノイズ評価、サイバー攻撃耐性などを評価、検査できる機材を設置。企業がIoT製品を発売する前に、実際に試験することができる。IoTテストベッドは、2019年2月初旬時点で企業や行政、研究機関などから500人以上が視察に訪れたという。

 都立産業技術研究センターでは、広範な分野の250人以上の研究員が長年にわたって各業種の企業を支援してきた。しかし、IoTは適用領域が広く、IoT開発セクターではIT関連部門を中核として各産業領域の専門家が参加する組織横断型の体制で中小企業の支援に当たっている。

東京都立産業技術研究センター プロジェクト事業推進部 IoT開発セクター 特命担当部長の櫻井政考氏
東京都立産業技術研究センター プロジェクト事業推進部 IoT開発セクター 特命担当部長の櫻井政考氏

 櫻井氏は、中小企業のIoTニーズとして「現場課題の解決と事業化の主に2つがある」と話す。2017年度と2018年度と二期にわたって国内外で視察を重ね、企業のIoT活用における問題点など検討。その結果、IoT活用に臨む前段階として「ビジネスのデジタル化」が不十分なケースも多く、「紙文書を電子化するというものではなく、自社の業務やビジネスそのものをデジタル化するとはどのようなものかを理解していただけるよう、支援事業を通じてマインドチェンジを促したい」(櫻井氏)とのことだ。

 同センターでは、大手メーカーの製造工場における可視化プロジェクトにも参画し、官民共同でのIoTの本格展開に向けた成功事例の創出にも乗り出す。これはIoT活用に乗り出したい中小企業が、システム実装やサービス運用におけるパートナーを見つけるための支援を目的にしているという。

 また、2019年4月から複数のパブリッククラウドサービス事業者と協力し、中小企業が1カ月間無償でサービスを利用しながらIoTシステムの構築やサービス運用を検証できる支援策も開始することにしている。櫻井氏は、「支援事業は5年間だが、ここから多くのIoTの導入や事業化につなげていくことで、中小企業の活力向上に貢献していきたい」と話す。

都立産業技術研究センターの「IoTテストベッド」。まずは11テーマでIoTの活用を紹介する

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