日本マイクロソフトは3月1日、日本を含むアジア地域でのデジタル変革(DX)の調査結果と、これに関連してオリンパスの“ICT-AI”プラットフォームとしてMicrosoft Azureが採用されたことを発表した。米Microsoft エグゼクティブバイスプレジデントのJean-Philippe Courtois氏は、「AI(人工知能)はビジネスの駆動力」と述べ、あらゆる業種でAIによる企業成長を目指す時代だと強調した。
米Microsoft EVP and President, Microsoft Global Sales, Marketing and OperationsのJean-Philippe Courtois氏
まずDXに関する調査は、同社がIDC Japanと共同で日本を含むアジア15カ国の約1600人を対象に行った。それによれば、日本のビジネスリーダー(CxO、VP・本部長、部長以上各3割程度)150人の約73%が、3年後の企業競争力におけるAIの重要性を認識していることが分かった。さらにAI導入済み日本企業は3年間で2.5倍の競争力向上を期待していると回答した。
だが、興味深いのはアジア地域全体と日本との意識差である。同社がAI未導入の現状と導入3年後の生産性向上の割合を尋ねると、アジア地域(n=1605)は19%から26%と1.9倍ながら、日本は11%から同じく26%と2.3倍と、大きいことが分かった。さらにAI導入で3年後に創造される製品・サービスの割合は、アジア地域が22%から42%の1.9倍に、日本は11%から25%の2.4倍になるとした。伸び率はいずれも日本が上回っているものの、後者に関して25%は低いという目標値を踏まえつつ、IDC Japan グループディレクターの眞鍋敬氏は「日本はビジネス競争で負ける可能性がある」と指摘する。
IDC Japan グループディレクターの眞鍋敬氏
日本マイクロソフトは今回の調査を通じて、「日本におけるAIの取り組みを開始した企業は約33%」「2021年までにビジネスリーダーがAIでイノベーションと従業員の生産性は2倍以上に加速すると期待」「AI活用の成功の鍵は『従業員のスキル』『洞察を得るツール』『組織文化』の3点」と発表している。Microsoft 最高経営者(CEO)のSatya Nadella氏が提示した「Tech intensity=(Tech adoption) Tech capability」を踏まえ、代表取締役社長の平野拓也氏は、「デジタルを用いてビジネス変革を進める流れは加速している。当社は使いやすいAIを提供すると同時に、倫理観を守る取り組みも同時に推進している」と、ビジネスのAI活用を後押しした。
AI活用の浸透度の状況(出典:IDC Japan)
同社はAIを“ゲームチェンジャー”に位置付け、「社員にパワーを」「業務の最適化」「顧客とつながる」「製品の変革」と4つのキーワードを自社ソリューションで実現可能とアピールする。さらに平野氏は、「AI人材の育成」「テクノロジ&コンサルティング支援」「社会変革支援」をさまざまなパートナーとともに実践していくと表明した。
日本マイクロソフト 代表取締役社長の平野拓也氏
なお調査結果に関して眞鍋氏は、前述した約33%という数値について注意が必要だとも指摘する。IDC Japanが各企業におけるAI導入の段階を調査したところ、25%が「戦略として考慮せず」、42%が「AIの熟成を待っている」と回答。24%が「検証を開始」、9%が「戦略の核として導入済み」と回答した。
つまり、後者の2つの数値を足し合わせたのが前述の33%になるが、「24%(の検証)はPoC(概念実証)段階も含む。さらに、AIをビジネスに取り込まないと国際競争力や業界競争力を失いかねない」(眞鍋氏)と警鐘を鳴らす。また、日本企業のビジネスリーダーはAI活用に対してバランスが悪く、アジア地域のそれと比較すると、投資は優れているが戦略が乏しいという結果も露呈した。ビジネスリーダーは「従業員はどのコースを選択すればよいか理解していない(49%)」と考える一方で、従業員は「お金を掛けたくない(35%、n=152)」「受講する十分な時間がない(32%)」と回答し、大きな差も見られる。
このような調査結果を踏まえてマクロソフトは、「組織は最新のテクノロジを迅速に採用し、活用するTech intensityで成功を目指すべき」(Courtois氏)と、ビジネスのあらゆる層にAIの活用を推奨する。他方で日本企業については、「AIジャーニー(旅)を始めていない。AIを享受するには活用に伴うリスクを避ける必要がある。我々は創業から現在までAI研究に投資し、AIの能力も人間に比類するようになった。(顧客にMicrosoft AIの)オプションを知ってもらい、企業需要に沿った機能のマッピングを提供する」(Courtois氏)と、明確なロードマップの提示を匂わせた。
なお、Courtois氏の発言で興味深いのが、「我々は仲介役であり競合存在ではない。当社は銀行や病院、流通企業を目指していない。顧客が最高のデジタル銀行やリテール、製造業を目指す支援をする」というものだ。説明後の質疑応答では「MicrosoftはAmazonと違うのか」との質問に、Courtois氏は苦笑しながら「そうだ。当社の売り上げの8割は法人。コミットメントには信頼が基盤にある」と回答した。