遅ればせながら、米国の政治家たちは、こうした議論の重要性を認識しつつある。新人の女性下院議員として人気のAlexandria Ocasio-Cortez氏は最近、かつてない規模で人間の思い込みを増幅させる可能性があるAIの偏りの危険性についてつぶやいた。
シンガポール政府は一歩先を行っており、ダボス会議では倫理的なAIの枠組みとともに、透明性が高く、説明可能で「人間中心な」形でのAIの実装方法に関する民間セクター向けのガイドラインを公開した。シンガポールには、世界トップクラスの理想的なビジネス環境が整っているが、同国の指導者らは長期的な成長には、明確な基準の促進や強制が必要なことを認識している。
究極的には、企業が求めているのは将来的なパフォーマンスの予測に必要な安定性である。民間セクターへの規制責任を放棄するだけでも、現場は先行き不透明から抜け出せなくなり、立法者、投資家、一般消費者のいずれにとっても悲惨な結果となる。
デジタル情報を保護するのは消費者自身
指針となる枠組みは有益な出発点である一方、より実用的な解決策とはいかなるものだろうか? 「Collection #1」と呼ばれる、最新の大規模なデータ流出事件から考えられる可能性の1つとして、アカウントのハッキング時に人々に通知する、集中管理型の政府サービスが考えられる。
こうしたツールの開発については、散在的な取り組みが見受けられ、ある程度の成功を収めている。理想的なのは、将来の特定の段階で、公的な監視機関による信頼性や想定される権限を追加することである。情報窃盗の被害の軽減を支援し、問題の重要性に対する注目を集めて、こうした攻撃に対する最初の防護壁としての役割を果たす際、このような通知システムがいかに有効であるかを考えていただきたい。
これまでと同様、最後に注意事項と個人的責任について述べておきたい。
特にAIが急ピッチで進化を続け、規制の枠組みがそれに追いつこうと奮闘する中、個人のデジタル情報を保護するのは、最終的には一般消費者自身である。自分でコントロールできる些細なことをすべきである。より詩的な格言を借りるなら、17世紀に清教徒革命を率いたOliver Cromwellの「神を信じ、そして火薬をしめらせるな」である。
パスワード管理ツールを使用すること、パスワードを使い回さないこと、アカウント情報の入力を求めるメールに注意することで、サイバー攻撃を受けにくくする必要がある。情報漏えいが起きてしまった際にパスワードを使い回していたら、車、自宅、銀行口座に同じ鍵を使っているのと同じくらい危険な状態であることを認識してほしい。
今回のダボス会議で確認された通り、政財界のリーダーは未だにデジタル世界を監視する最善の方法を模索している。筆者は、そうしたリーダーたちが一般市民にとって最善の利益を考えているわけがないと考えるような現実主義者である。テクノロジが急速に変化する中、筆者はすべての人に対し、AIなどの画期的な技術によって実現しうる可能性について楽観的な見解を持つと同時に、こうした新たなツールを使用する際には、警戒心を忘れないことを奨励する。
この記事はAvastのブログを翻訳、編集したものです。
- Garry Kasparov
Human Right Foundation理事長
1963年旧ソ連アゼルバイジャン生まれ。現在はニューヨーク市在住。2005年からロシアの民主化運動を展開している。オックスフォード大学マーティンスクールの客員フェローとして、人と機械のコラボレーションを中心に講義を担当。ビジネスや学問、政治の領域を対象に意思決定、戦略、テクノロジ、人工知能をテーマとした講演活動を続けている。政治、認知、テクノロジ分野での執筆活動は大きな影響力を持っており、世界中の主要出版物で数多く取り上げられている。2016年にAvastのセキュリティアンバサダーに就任した。