マニュアルは働き方改革の切り札--“使い続ける”に着目するスタディスト

國谷武史 (編集部) 2019年03月19日 06時00分

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 マニュアルの作成と活用のクラウドサービス「Teachme Biz」を展開するスタディストは、新たにセールスフォースとのサービス連携を開始する。人手不足や働き方改革関連法の施行を控え、「企業では人材の定着化が最大の課題」と話す代表取締役の鈴木悟史氏に、“使い続ける”業務マニュアルの実現に向けた取り組みを聞いた。

Teachme Bizのマニュアル画面(iPhoneでの見た場合)。2月のオフィス移転時に荷物の梱包方法などを管理部門がマニュアル化して社員に共有した
Teachme Bizのマニュアル画面(iPhoneでの見た場合)。2月のオフィス移転時に荷物の梱包方法などを管理部門がマニュアル化して社員に共有した

 2013年に開始したTeachme Bizは、製造や金融、小売、飲食などの中心に多数の企業ユーザーを抱える。PCのウェブブラウザやモバイルアプリを使って、画像や動画をベースにマーカーやメッセージなどを簡単に書き加えながら、業務手順に従ったマニュアルを作成できることに加え、必要な相手にマニュアルを配信・共有したり、利用状況を把握したりできる。特に、一度作成したマニュアルもウェブブラウザやモバイルアプリから容易に更新できる手軽さが評価されている。

 鈴木氏は、Teachme Bizのコンセプトを「Visual SOP(Standard Operating Procedure=視覚的な標準業務手順書)」と説明する。Teachme Bizは、もともと製造現場でマニュアル活用がなかなか定着しないという課題の解決を目的に開発された。「新しい人が業務をできるようにするには、標準化された業務の手順書がなければ実質的に不可能。文字だらけの手順書も難解で、特に言葉に不慣れな外国人は理解できない。目で見て動きが分かることが必要」(鈴木氏)という。

 ただ、マニュアルの基になる「標準の業務手順」をどうするかが難しい。通常は、担当者が属人的だったり個人の暗黙知だったりするバラバラの業務の手順やノウハウを棚卸しして、ドキュメントとしてまとめ上げいく。その負担は大きく、苦労して作成したマニュアルは、継続的に使われ、かつ、業務環境の変化に合わせて内容がアップデートされなければ本末転倒になってしまう。

 このため同社は、最初から完成形のマニュアルを目指すのではなく、ユーザーの手元にあるデバイスやアプリを使って、目前の業務の流れを記録しながら、工程型のマニュアルに気軽に作り上げていけるようにした。クラウドサービスとしてマニュアル作成者以外の関係者も同じ方法で容易に更新したり、ユーザーが必要な内容のマニュアルをすぐに入手、参照したりできることにより、マニュアルの“使い続ける”部分を実現しつつある。

 4月に開始する「Teachme Biz for SFA」は、セールスフォースのアプリケーションにTeachme Bizの機能を統合するもので、セールスフォースの使い方が分からない際、その画面内でマニュアルをそのまま閲覧できるようになる。これは同社自身の経験が開発の発端だった。

 スタディストはセールスフォース・ドットコムと資本業務提携を結んでいるが、実際にユーザーとして1年ほど前にセールスフォースを導入した。「セールスフォースの活用で収益を最大20%向上できると言われるが、その前提条件として『セールスフォースを使いこなせること』と『カスタマイズすること』がある」(鈴木氏)

「Teachme Biz for SFA」の画面イメージ(出典:スタディスト)
「Teachme Biz for SFA」の画面イメージ(出典:スタディスト)

 鈴木氏によれば、多くのユーザーはセールスフォースの機能のカスタマイズとその操作マニュアルの整備を外部に委ねているという。しかし、「セールスフォースを使いこなす」という前提条件をクリアするには、常にセールスフォースを“自分流”にアレンジしなければならず、その作業を外部に依存していては対応がはかどらない。それに、ベテランのユーザーが“自分流”にしていくと、今度は新しいユーザーが習熟する間に使い方が変わってしまうし、セールスフォース自体も新機能がどんどん追加されていく。

 Teachme Biz for SFAの開発を担当する取締役 CTO(最高技術責任者)の佐橘一旗氏は、「当社ではセールスフォースと会計システムを連携させるなどのカスタマイズを進めており、毎月新しい社員が加わる中で、どんどんと変わるセールスフォースの使い方を理解してもらうのが大変だった」とその背景を語る。セールスフォースの画面を見ながら別の画面でTeachme Bizのマニュアルを確認するのは効率的ではなく、セールスフォースの画面にTeachme Bizの機能を統合してマニュアルの使い勝手を高めるのが、開発の目的だ。

“マニュアルブーム”の実態

 昨今では少子高齢化に伴う労働力不足や、4月からの働き方改革関連法施行に伴う残業規制の強化を背景に、企業の働き方改革は待ったなしだ。人員の限られる職場では、新しい人材を獲得できてもその育成に十分なリソースを割けることができないでいる。そこで多くの企業が標準業務手順書の整備に乗り出し、その需要を見込んだマニュアル作成を代行するベンダーのプロモーションも活況を呈している。

 スタディストもTeachme Bizでマニュアル作成の機能を提供しているが、鈴木氏は「他社はあくまでマニュアル作りを請け負うことにフォーカスしているので、我々の競合ではない。そもそもマニュアルは、最初に使うだけではなく繰り返し使うもの。実は人材の獲得よりも獲得した人材の定着こそが肝心で、マニュアルが大きな役割を果たす」と話す。

 最初の教育ではベテランが新人に寄り添うが、新人が一度で業務手順を全て理解することは非常に難しい。業務に追われるベテランの様子を見た新人は、分からないことを聞きづらい。整備・活用されるマニュアルがあれば自己解決できる機会が増えるが、マニュアルが使えないものなら効果はない。結果的に新人は業務に慣れることできず、辛くなり早期退職してしまう。

 「ある企業の担当者は、『採用コストの損失は痛手だが、それより育成コストの方が大きく、新人が辞めるなら3日以内の方がありがたい』と話していた。それで良いのかと疑問に思う」(鈴木氏)

 そこで「標準業務手順書」が期待されるが、その整備負担は大きい。外注してもマニュアルの内容はその時点の業務に対する外注先の“理解”をベースに作成される。更新するにも外注を続けることになり、それがストップすればマニュアルは“役立たず”になる。スタディストがTeachme Bizで競合のようなマニュアル作成の代行に乗り出さないのは、ユーザーが主体となって「使い続けるマニュアル」を実現していくサービスの主旨に反してしまうからのようだ。

 今後の取り組みついてCTOの佐橘氏は、「AR(拡張現実)やVR(仮想現実)の技術が進化しており、PCやモバイル以外にも使いやすさを高めていく。マニュアルは業務で活用されることが大切で、アプリケーションとの連携も広げる。Teachme Biz for SFAは最初の一歩」と話している。

スタディスト 代表取締役の鈴木悟史氏(右)と取締役 CTO 開発部長の佐橘一旗氏
スタディスト 代表取締役の鈴木悟史氏(右)と取締役 CTO 開発部長の佐橘一旗氏

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