詳細解説--楽天モバイルネットワークの5G基盤はどうなっているのか

山本雅史 2019年03月20日 06時00分

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷

 2017年12月に携帯電話キャリア(MNO:Mobile Network Operator)への参入を決めた楽天(楽天モバイルネットワーク)は、2019年10月のサービス開始を目指し、ここにきてネットワークの構成などがはっきりしてきた。既存のMNOとは全く違う、IT側からの発想と先進的な仮想化ネットワークを採用したものになっている。

ネットワーク構成。仮想化とクラウド化により、専用ハードウェアを廃し、標準的な機器でネットワークが構成される
ネットワーク構成。仮想化とクラウド化により、専用ハードウェアを廃し、標準的な機器でネットワークが構成される
ネットワークはITのアジャイルや仮想化、クラウドなどを取り入れたものとなっている
ネットワークはITのアジャイルや仮想化、クラウドなどを取り入れたものとなっている

 今までMNOのネットワークといえば、特注の機器で構成されることから、ハードウェアコストが非常にかかるものだった。しかし、楽天が目指す携帯電話ネットワークは、現在多くの企業が利用しているITインフラのクラウド、オープンソフトウェア、仮想化技術を利用したものとなる。

 既存のMNOには、2G、3G、4Gと、これまで投資していたレガシーなハードウェアのネットワークが存在する。また、通信キャリアのハードウェアは、品質や信頼性などの面からカスタムハードウェアが利用されていることがほとんどだった。今では携帯電話の利用方法がデータ通信中心になり、音声通話さえもデジタルデータとして扱われるようになり、ITで標準的に利用されているx86サーバが多く利用されてきている。

 楽天モバイルネットワークは、同社自体が新設のため、既存のレガシーシステムが存せず、最新のネットワークシステムが構築できる。また、目前に5Gシステムの導入が迫っているため、5Gベースのネットワーク構成を4Gに適応してネットワークを構成できる。つまり、5Gを前提に4Gネットワークを構築することになる。

 その最大の特徴といえるのは、多くの機能を既存キャリアのように専用ハードウェアで実現するのではなく、仮想化を利用したソフトウェアで実現しようとしている点だ。例えば、基地局に関しても、vRAN(virtualized Radio Access Network:仮想化無線ネットワーク)を採用することで、アンテナとRRU(Remote Radio Unit:リモートラジオユニット)、BBU(Base Band Unit)を分離して、BBUをエッジサーバ上でソフトウェアによる仮想化で実現する。これにより、基地局の1台のコストは大きく下がり、ハードウェアとしてもコンパクトになるため、設置場所に対する負荷が少ない(物理的に重量が軽い)。

 既存のMNOは、アンテナやRRU、BBUを1つのセットにして基地局としている。これは、今までのレガシーなネットワーク構成に引きずられているためだ。10年前に比べて基地局はコンパクトになったといえ、専用のハードウェアを必要とすることからコストも高い。

従来の基地局構成イメージ
従来の基地局構成イメージ
既存のMNOでは、アンテナとBBUがワンセットになっていた。しかし、楽天モバイルネットワークでは、BBUを仮想化することで、基地局としてはアンテナとRRUだけになる。このためコンパクトで低コストだ
既存のMNOでは、アンテナとBBUがワンセットになっていた。しかし、楽天モバイルネットワークでは、BBUを仮想化することで、基地局としてはアンテナとRRUだけになる。このためコンパクトで低コストだ

 楽天モバイルネットワークでは、BBUをソフトウェアで仮想化し、x86サーバをエッジサーバとして配置する。エッジサーバは、NTTの電話局にコロケーションで設置する。基地局とエッジサーバ間は、専用の光ファイバ(100Gビット)で接続される。

 ただ、単なるx86サーバだけでは、基地局からのパケットを処理するのに負荷がかかる。このためエッジサーバに、携帯電話ネットワークのパケット処理にチューニングしたIntelのFPGAカードが使われている。1つの基地局に対して1つのFPGAカードが接続されることで、負荷のかかるパケット処理を高速なFPGAでハードウェア処理してしまうというコンセプトだ。

 そして、エッジサーバからは、クラウド化されたセンターにテラビット単位の光ファイバで接続される。このセンターは、Red HatのOpenStackディストリビューションの「Red hat OpenStack Platform」、OSとしては「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」、ストレージには「Red Hat Ceph Storage」が利用されている。さらに、仮想化基盤としてDockerを利用することにより、クラウド上で多数のコンテナを動かしてサービスを構築する。コンテナ化により、サービスをコンテナに分割し、マイクロサービス化することで、素早いサービス構築を可能にしている。

 ネットワーク自体も仮想化されたSoftware Defined Networking(SDN)により、ハードウェアに縛られないネットワーク構成を実現している。さらに、NFV(Network Functions Virtualization)を採用することで、既存のMNOでは専用のハードウェアを使用していたルータやファイアウォール、ロードバランサなどを仮想化されたソフトウェアで構成する。構築当初からIPv6をサポートすることで、スマートフォンなどのモバイル端末だけでなく、台数の多いIoTデバイス、低遅延が必要とされるVR/AR(仮想現実/拡張現実)端末、ドローンのコントロール、自動運転システムの伝送路なども利用できる。

 しかし、多くの機能をソフトウェアで仮想化することで大きな問題となるのは、DevOps(開発・運用・管理)だ。

 例えば、あるコンテナサービスをアップデートしたり、バグを修正したりした場合、クラウドのサーバやエッジサーバに配布してセットアップする必要がある。さすがに、わざわざフィールドエンジニアがプログラムを持ってセットアップすることは、物理的にもコスト的にも行えない。そこで利用されるのが、JenkinsやChefなどの大規模なサーバ群を管理し、プログラムの配布を自動化するシステムだ。楽天モバイルネットワークでもこうしたツールが利用されている。楽天にとっては、楽天市場などの大規模ECサイトの運用にJenkinsやChedなどの管理ツールを利用しているため、実績のある運用システムといえる。

 楽天モバイルネットワーク クラウド部長のKhan Ashiq氏によれば、センターで集中的にコントロールしているため、仮に新しいコンテナサービスでトラブルが起きれば、すぐ元に戻すことができ、大規模で長時間の通信トラブルには陥らないと見ている。実際に楽天モバイルネットワークでは、2019年2月に完成した「楽天クラウドイノベーションラボ」に1000台規模のサーバとストレージ、基地局やエッジサーバなどを設置してシステムの開発を行っている。このラボでは、サービスがカットインした後もバグフィックスやサービスのアップデートなど日々行われ、ラボできちんとテストし、問題がないコンテナを運用環境に適応している。

 同社は汎用品のハードウェアを積極的に採用するが、各レイヤでは調達先を1~2社に絞っている。これにより、既存のMNOのようにさまざまなメーカーの専用機器が無秩序に導入されることを防ぎ、シンプルでスケーラブルなハードウェア構成のネットワークにする予定だ。RANはNokiaとAltiostar、伝送系はOKI(沖電気工業)と富士通、Cisco Systems、Ciena、コアがNokia、Cisco、BSS/OSSがNECとNetcracker、InnoEye Technologies、サーバがQuanta Computerとなっている。これらのハードウェアとネットワークをオーガナイズするのがインドのTech Mahindraである。

ソフトウェアはオープンソースを積極的に採用し、ハードウェアはITで利用されている標準品を積極的に採用していく
ソフトウェアはオープンソースを積極的に採用し、ハードウェアはITで利用されている標準品を積極的に採用していく
既存のMNOは既存インフラのため、5Gネイティブのネットワークを構築するには、既存インフラとすり合わせをしながら移行する必要がある。レガシーを持たない楽天モバイルネットワークは最新システムを一気に導入できる
既存のMNOは既存インフラのため、5Gネイティブのネットワークを構築するには、既存インフラとすり合わせをしながら移行する必要がある。レガシーを持たない楽天モバイルネットワークは最新システムを一気に導入できる
2019年2月に楽天本社がある東京・二子玉川周辺でネットワークの実証実験を行っている
2019年2月に楽天本社がある東京・二子玉川周辺でネットワークの実証実験を行っている

 楽天モバイルネットワークでは、当初は4Gネットワークを東京、名古屋、大阪の3地区を自社ネットワークとして構築する。ただ、自前のネットワークだけでは全国をカバーするまでに時間がかかる。そこでKDDIと提携し、auのネットワークをローミングネットワークとして利用することによって、4Gネットワークも2019年10月のサービス開始時に全国で利用できるようにする予定だ。

 同社の担当者に話をすると、4Gよりも5Gネットワークへ早く移行したいという印象を受けた。この辺りは、後発のMNOとして、膨大なユーザー数とインフラを持つ既存のMNOと同じ土俵で戦うのは不利ということだろう。現状では、4Gの無線周波数しか認可されていないため、2018年度中に行われる5Gの無線周波数の割り当てを受けて、早急に5Gネットワークを立ち上げたいようだ。

 実際、同社のネットワーク構成自体は5Gをにらんだものになっており、先行する4Gの基地局に5Gの基地局を追加するだけで対応できるように考えられている。レガシーなネットワークが存在しないため、5Gの技術性能要件を満たすSA(Stand Alone)のネットワークをいち早く構築できる。既存のMNOには3Gや4Gなどのレガシーネットワークがあり、5Gになってもレガシーネットワークとの下位互換性を持ったNSA(Non Stand Alone)で5Gサービスを始めるしかない。既存のMNOが5GのSAへ完全移行するには10年単位の時間がかかるといわれている。

 また、5Gの周波数として3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯などが検討されている。高い周波数帯になれば、1台の基地局で広範囲をカバーできないため、コンパクトで低コストの基地局を多数設置する必要がある。こういった意味でも、楽天モバイルネットワークの基地局は大きなメリットがありそうだ。

 ソフトウェアによる仮想化のメリットでは、ネットワークを目的別にスライシングできる点が挙げられる。例えば、現在のスマートフォンなどで利用するネットワーク、IoTなどで利用する膨大な数のセンサやデバイスをコントロールするネットワーク、VR/ARやドローンコントロールなどの低遅延通信を実現するネットワークなどを仮想的に提供できる。基地局からエッジサーバ、バックホールのネットワーク、加入者管理系などのネットワークサービスが提供する機能を、あたかも“食パンをスライス”するように提供できるわけだ。

 この仕組みを利用すれば、楽天モバイルネットワークがMNOとして、MVNO(Mobile Virtual Network Operator)にネットワークサービスを貸し出すことも実現される。

Wi-Fiなどで採用されているビームフォーミングや4×4MIMO、256QAMなどを使用することで、5Gネイティブなネットワークを構築する
Wi-Fiなどで採用されているビームフォーミングや4×4MIMO、256QAMなどを使用することで、5Gネイティブなネットワークを構築する
基地局設置を前倒し、4Gよりも5Gでいち早く全国のネットワークを構築したいようだ
基地局設置を前倒し、4Gよりも5Gでいち早く全国のネットワークを構築したいようだ
4Gネットワークは当初は東京23区、名古屋、大阪で開設し、その後全国の主要都市に展開予定。カバー仕切れない場所はKDDIのローミングを使用する
4Gネットワークは当初は東京23区、名古屋、大阪で開設し、その後全国の主要都市に展開予定。カバー仕切れない場所はKDDIのローミングを使用する
当初4Gへの投資を6000億としていたが現在の見通しては6000億を下回るようだ
当初4Gへの投資を6000億としていたが現在の見通しては6000億を下回るようだ
5Gへのアップグレードは5Gのアンテナを配置し、ソフトウェアをアップデートするだけで対応
5Gへのアップグレードは5Gのアンテナを配置し、ソフトウェアをアップデートするだけで対応

 楽天モバイルネットワークの仕組み自体は、全世界のMNOの中でも非常に先進的で革新的だ。ただ、実際にトラブルなく稼働するかどうかが焦点になる。

 サービスインまでは、「楽天クラウドイノベーションラボ」で徹底したシステム構築とテストが行われることから、サービス開始が大幅に遅れるということはないだろう。実際、楽天モバイルネットワークが全てのソフトウェアを構築することはなく、多くのソフトウェアがベンダー各社から提供されている。また、これらのソフトウェアのオーガナイズをインドのTech Mahindraが行う。

 大きな問題が起こるとすれば、サービスインしてからの実環境において、ラボでのテスト項目にない「想定外」のトラブルとなるだろう。その時に短時間でトラブルを回避できるのか、長時間のトラブルを起こしてしまうのかによって、楽天モバイルネットワークの運用能力を測れる。やはり、サービスインをすれば問題の大小の違いはあって、必ずトラブルは起こるだろう。どれだけ短時間にトラブルを回避できるのかが同社の評価を決めてしまうかもしれない。

 ただ、これだけの先進的なネットワーク構成は世界でも注目されている。トラブルを乗り越え、いち早くネイティブな5Gの世界をユーザーに見せてところだ。

ZDNet Japan 記事を毎朝メールでまとめ読み(登録無料)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SpecialPR

連載

CIO
月刊 Windows 10移行の心・技・体
ITアナリストが知る日本企業の「ITの盲点」
シェアリングエコノミーの衝撃
デジタル“失敗学”
コンサルティング現場のカラクリ
Rethink Internet:インターネット再考
インシデントをもたらすヒューマンエラー
トランザクションの今昔物語
エリック松永のデジタルIQ道場
研究現場から見たAI
Fintechの正体
米ZDNet編集長Larryの独り言
大木豊成「仕事で使うアップルのトリセツ」
山本雅史「ハードから読み解くITトレンド放談」
田中克己「展望2020年のIT企業」
松岡功「一言もの申す」
松岡功「今週の明言」
内山悟志「IT部門はどこに向かうのか」
林 雅之「デジタル未来からの手紙」
谷川耕一「エンプラITならこれは知っとけ」
大河原克行「エンプラ徒然」
内製化とユーザー体験の関係
「プロジェクトマネジメント」の解き方
ITは「ひみつ道具」の夢を見る
セキュリティ
セキュリティインシデント対応の現場
エンドポイントセキュリティの4つの「基礎」
企業セキュリティの歩き方
サイバーセキュリティ未来考
ネットワークセキュリティの要諦
セキュリティの論点
スペシャル
エンタープライズAIの隆盛
インシュアテックで変わる保険業界
顧客は勝手に育たない--MAツール導入の心得
「ひとり情シス」の本当のところ
ざっくり解決!SNS担当者お悩み相談室
生産性向上に効くビジネスITツール最前線
ざっくりわかるSNSマーケティング入門
課題解決のためのUI/UX
誰もが開発者になる時代 ~業務システム開発の現場を行く~
「Windows 10」法人導入の手引き
ソフトウェア開発パラダイムの進化
エンタープライズトレンド
10の事情
座談会@ZDNet
Dr.津田のクラウドトップガン対談
Gartner Symposium
IBM World of Watson
de:code
Sapphire Now
VMworld
Microsoft Inspire
Microsoft Connect()
HPE Discover
Oracle OpenWorld
Dell Technologies World
AWS re:Invent
AWS Summit
PTC LiveWorx
吉田行男「より賢く活用するためのOSS最新動向」
古賀政純「Dockerがもたらすビジネス変革」
中国ビジネス四方山話
ベトナムでビジネス
日本株展望
企業決算
このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]