事例を1つ挙げてみると、ドイツに拠点を置き、香料や芳香化合物、食品成分などを取り扱う世界的な化学品メーカーのSymriseは、ブラジルのミレニアル世代(1980〜2000年初頭生まれの世代)の市場に向けた新たな香水を開発するためにAIを導入した。これらの香水は売り上げを伸ばし、新たな国への展開をも可能にした。しかし、Symriseの幹部であるAnton Daub氏によると、その実現までに2年近くを要したという。その2年はSymriseの調香師によるAIシステムの徹底的な訓練と、同社の保有するさまざまなデータをAIに与えるためのITシステムの高価なアップグレードに費やされた。
AIシステムでは継続的な調整と訓練が必要であるため、どのようなAIプロジェクトにも「投機的な」要素が常に存在することになる。その理由は、人間の精神が予測できない(その結果、エミュレーションできない)ためだ。こうした不確実性は、AIにおけるどのようなROI算出式でも考慮しておく必要がある。AIの推進者は、上級マネジメント層がリスクを想定し、管理できるよう、あらかじめ理解を求めておくことができるはずだ。また、AIプロジェクトにおける未知の要素や予期しない事態に備え、プロジェクトのコスト見積もりに20%のマージンを確保し、ROI算出式にリスクを織り込んでおくということもできるだろう。
新たなシステムプロセスと業務プロセス
自社へのAI導入によって、システムや業務プロセスに影響がもたらされる。AIと通信し、情報をやり取りしなければならないシステムは少なくとも、AIと統合されている必要がある。また、システムプロセスも当然ながら修正が必要となる。業務プロセスでのAI導入が進むにしたがい、それまで人間によって処理されていたプロセスがAIによって処理されるようになる結果、その処理の担当者は新たな、および/あるいは見直された職務を担当するようになる。業務プロセスのこうした見直しはROIを算出する過程で計画や訓練、考慮が必要となる。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。