日本マイクロソフトは4月19日、Microsoft Azureのオンプレミス運用を想定した「Azure Stack」のハイパーコンバージドインフラストラクチャー(HCI)版となる「Azure Stack HCI」に関する説明会を開催した。Azure Stack HCIは米国時間3月26日に発表され、Azure Stackファミリーに連なる存在だが、Windows Server 2016シリーズでHCIを実現する「Windows Server Software Defined(WSSD)」をリブランディングした形となる。
Azure Stack HCIの購入方法などはWSSDプログラムと相違なく、各HCIベンダーも既に、提供に名乗りを上げている。富士通はAzure Stack HCIの検証を終え、次期リリースのサーバーで対応する予定のほか、Dell EMCは4月1日、日立製作所は3月28日、日本ヒューレット・パッカードは4月4日にそれぞれリリース済み。今後はレノボ・ジャパンが5月上旬に、NECが6月上旬に対応製品のリリースを予定している。
多くの企業は、マルチクラウド時代におけるビッグデータの活用やコスト最適化など、多くの課題を抱えている。Microsoftなどが2017年に実施した調査によれば、ハイブリッドクラウド戦略を持つ企業の割合は84%(前年度比29%増)で、近い将来にハイブリッドクラウドの運用を予定している企業の割合は91%、オンプレミスのデータセンターとパブリッククラウドとの統合を計画している組織の割合は87%という状況だ。
今後のビジネスシーンにおいて洞察を得るためにも膨大なデータが必要になる。例えば、自動運転車からは1日当たり5TBものデータを収集可能だが、あくまでも車両1台の話だ。これが何千、何万台も街中を走行する未来を鑑みれば、「現場で生まれるデータを全てクラウドに上げるのはナンセンス」(日本マイクロソフト 業務執行役員 クラウド&エンタープライズ本部長の浅野智氏)。浅野氏は、「『クラウドコンピューティング×データによる革新的なスピードとアジリティ』を実現するためのハイブリッド(クラウド環境)が必要」と述べ、オンプレミス型クラウドの重要性を強調した。
日本マイクロソフト 業務執行役員 クラウド&エンタープライズ本部長の浅野智氏
そのため各クラウドベンダーは、自社クラウドのオンプレミス版を展開している。例えば、MicrosoftならAzure Stack、Amazon Web Services(AWS)なら「AWS Outposts(現在はプレビュー版)」、Googleは「GKE On-Prem(現在はアルファ版)}を用意する。各ベンダーは、秘匿性の高いデータの処理や、前述したエッジ側でのデータ処理といったオンプレミスへの需要がグローバルレベルで今後も一定して継続すると見ているようだ。浅野氏は、「クラウドと同じ体験ができるオンプレミスとクラウドを行き来できる。Microsoft AzureとAzure Stackは、大きなクラウド戦略の上に成り立っている」と、競合他社との違いを強調した。
各クラウドベンダーにおけるオンプレミス版の機能比較(出典:日本マイクロソフト)
クラウド&エンタープライズビジネス本部 プロダクトマネージャーの佐藤壮一氏は、Azure Stack HCIについて、「IaaSやPaaSなどの上物を取り除いた状態」と端的に説明する。Azure Stackで用いるハードウェアや、HCIが供えるコンピューティング、ストレージ、ネットワークなど類似点が多いAzure Stack HCIは、OSに「Windows Server 2019 Datacenter Edition」を採用する。同OSは、前バージョンの「Windows Server 2016」の時点で記憶域スペースダイレクトなどHCIでの利用を想定した機能を備え、台数無制限の仮想マシンやコンテナの利用も想定しているため、「よりエッジに近く小さな需要に適合するソリューション」(佐藤氏)となり得る。
また、先日にIntelが発表したPersistent Memory(永続性メモリー)など最新ハードウェアにも対応し、IntelおよびMicrosoftが2018年9月ごろに共同検証した結果、1379万8674IOPS(1秒当たりに処理可能なI/Oアクセス数)という数値を叩き出した。佐藤氏は、Azure Stack HCIの想定用途にレガシーアプリケーションや仮想マシン、金融系のメインフレームと連携する環境など、「全てをパブリッククラウドに移行させるのが難しいシステム」を挙げた。
日本マイクロソフト クラウド&エンタープライズビジネス本部 プロダクトマネージャーの佐藤壮一氏
佐藤氏は、「Windows Server 2008 R2のEoS(サポート終了)や老朽化したハードウェアのリプレース先、サーバーインフラストラクチャーの統合、オンプレとクラウドの両者を使いつつ、オンプレミス側にも効率性を求める」場面においてAzure Stack HCIが役立つと説明する。
その他のメリットとして他社製HCIは、OSライセンスにHCI技術が組み込まれているため、HCIソフトウェアライセンスや仮想化技術ライセンスが不要になる。「ホストとなるWindows Server 2019 Datacenter EditionにHyper-V仮想マシンのライセンスも含んでいる」(佐藤氏)ため、コスト削減にもつながるという。現在Windows Serverを利用する企業なら検討すべき選択肢になり得るだろう。
また、Microsoft Azureとの連携や新たな管理ツールとなる「Windows Admin Center(WAC)」もアピールした。Azure側からバックアップを管理、実行するAzure Backupや、災害管理のAzure Site Recovery、Windows Serverの更新管理に用いるAzure Automationもそのまま使用できる。佐藤氏は、「WACをハブに(Azureとの)連携を継続的に強化する」と説明する。
日本マイクロソフトは他社製HCIよりもAzure Stack HCIはコスト削減に役立つと主張する(出典:日本マイクロソフト)