展望2020年のIT企業

働き方改革をクラウドサービスで支援するチームスピリット

田中克己

2019-05-28 07:00

 労働生産性など働き方改革を支援するソフトウェアやサービスが増えている。調査会社のIDC Japanによると、国内の「働き方改革ICT市場」は年率平均7.6%で成長し、2022年に3兆2804億円に拡大すると予測する。労働時間の短縮や労働生産性の向上、時間と場所に柔軟性を持たせた働き方の促進、ルーチンワークの削減、ワークライフバランスの向上などをサポートするテクノロジーの市場規模を積み上げたもの。

 この市場で活躍する1社がチームスピリットだ。勤怠管理や就業管理、工数管理などの機能を備えた働き方改革プラットフォームをクラウドサービスとして提供する。売り上げ100億円を目指す同社の取り組みを見る。

受託開発からプロダクト作りへのビジネスモデル転換

 チームスピリットの荻島浩司社長は商業デザイナー、ソフトウェア会社のプロダクト開発などを経験し、1996年に同社を起業した。大手企業で、個人事業主として契約管理など金融系アプリの開発を担当する。「私がプロデューサーになり、システムの企画から設計、マーケティングを担った」(荻島氏)。2006年ごろになると受託開発へと広がり、社員も雇用する。ところが、社員7人になった2011年に受託開発からプロダクト作りへビジネスをシフトさせた。荻島氏はこの年を“創業”と位置付け直した。

 受託開発を止めたのは「将来性があまりないと感じた」(荻島氏)からだ。分かりやすく言えば、社員が毎年、年齢を重ねていく中で、年配者を辞めさせて、代わりに若い人を雇っていく。「そんなビジネスはもうかるのだろうが、経営者として楽しいビジネスではない」(同氏)。理由はもう1つある。システム企画から稼働までの時間がかかること。当初、革新的なアプリだとしても、出来上がった2~3年後には陳腐化する。だから、ユーザーの不満が大きくなり、誰も喜ばないシステムになる。荻島氏はそこに限界を感じたという。

 そこで、サービスモデルへの転換を決断した。2009年にセールスフォース・ドットコムのパートナーになり、勤怠管理SaaSの無料提供を開始した。自社開発のきっかけがあった。「市場にあるプロダクトの画面が“ださかった”ので、社内用に自分で作ることにした」と、荻島氏は商用デザイナーの経験を画面作りに生かしたという。「ユーザーから画面の見た目がいい」と、高く評価されたことにも喜ぶ。

 無料提供にした理由もある。「下請けだったので、エンドユーザーと付き合う機会がないので、トラブル時の反応が分からなかった。無料なら怒られることはないし、反応も分かる」(荻島氏)。そうして、利用者の意見を集めながら機能の改良と拡充を図り、データを活用した生産性向上の可視化を実現する働き方改革プラットフォームにしていった。

ユーザーの声を聞く顧客満足度向上チームが長期契約のカギ握る

 2011年、1人当たり月額600円の有料版サービス「TeamSpirit」の提供を始めた。主な機能は、日々の行動を計画するカレンダーや日々の活動や報告を記録する工数管理、働き方を可視化するダッシュボード、コーチングやコミュニケーションを実現するSNS、プロジェクト損益と連携する経費精算、労働時間や休暇を管理する勤怠管理・就業管理などになる。

 現在、年3回のバージョンアップを実施する。「こんな分析をしたい」といったユーザーの要望を聞いて、機能に取り込んでいく。長期にわたって利用してもらうために、カスタマーサクセスと呼ぶ顧客満足度を上げるチームがユーザーの声を聞く。営業が直接、ユーザーから聞き取ることもあるが、社員80人超のうち4分の1がカスタマーサクセスなどのサポートを担っている。

 結果、累計ユーザー数(2019年2月時点)は、大手企業を中心に約1100社、ID数で17万人に達する。最も多い業種は、システム開発業の30%、次いで製造業・卸売業の15%、人材派遣・人材紹介の12%、建設・不動産・インフラの11%と続く(ID数500人以上のユーザー)。データを連携させ、どの作業に何時間かかったのか、といった働いた時間と作業内容が分かることから、システム開発業などの導入が多いという。個別原価管理も可能だという。

 業績は順調に推移し、2018年8月期に黒字化(営業損益)した。売り上げも年率平均50%以上で成長し、2019年8月期に18億6900億円、2023年8月期に100億円を計画する。目標達成に向けて、次世代プロダクトの開発にも着手したところ。2017年12月に設けたシンガポールの開発拠点に約10人を配置し、TeamSpiritのグローバル対応版の開発に当たっている。近く発売する。荻島氏によると、日系やアジアの企業が多数進出するアジアのハブになっているシンガポールに、大きなビジネスチャンスがあるという。2023年には、売り上げの1割を海外から得る計画を練っている。

 1960年生まれの荻原氏はそんな市場とユーザーを狙って、グローバルに通用するTeamSpiritに作り上げていく考えのようだ。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。

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