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M&A戦略でITから働き掛けた全社の意識改革--PHC HDの峰島CIO

國谷武史 (編集部)

2019-07-18 06:00

 ヘルスケアや医療を主力事業とするPHCホールディングスは、M&A(合併・買収)を軸とする成長戦略を推進している。ITの観点では、M&Aに伴って自社の業務システムに別の企業のシステムが加わり、多数の個別システムが乱立する状態に陥り、そのままでは事業のスピードが停滞してしまう。SAPジャパンが開催したイベント「SAP NOW」では、PHCホールディングス執行役員CIO(最高情報責任者)の峰島孝之氏が、M&Aに伴うIT変革を図るうえで全社にどう働きかけをしたのかを語った。

 PHCホールディングスは、パナソニックと旧三洋電機のヘルスケア事業部門が2012年に統合。2016年にはドイツBayerのDiabetes Care事業(ヘルスケア)を加え、2018年に「パナソニック ヘルスケアホールディングス」から現社名に変更した。2018年3月期の全社売上高は約1926億円、125カ国に約5400人の従業員が在籍する。

PHCホールディングス 執行役員CIOの峰島孝之氏
PHCホールディングス 執行役員CIOの峰島孝之氏

 峰島氏によれば、ヘルスケア業界にも“デジタル化の波”が到来している。従来の医療の中心は診断と治療にあり、医療の提供は病院が起点だった。しかし、昨今ではウェアラブルデバイスによるバイタルデータの計測といったようなデジタル技術やデータ活用が広がり、予防やモニタリングにも医療の力点が拡大、患者起点による医療の提供が重視されるようになった。

 そこでヘルスケア業界の企業は、M&Aにビジネス拡大の活路を見いだしており、同社の分析では年平均2件以上のM&Aを実施できる能力がこの業界の企業にとって必須だという。PHCホールディングスもM&Aを軸に事業ポートフォリオを拡大することで、2023年度に売上高3200億円の成長を目指す戦略を掲げる。

 峰島氏は、ITがこの戦略に先回りをして事業基盤を整備しなければ会社の成長の足かせになると考え、IT改革に乗り出したという。同社のIT環境は、先述した設立の経緯から非常に複雑で、ERP(基幹業務システム)領域を見てもマルチベンダーによる多数のシステムが乱立していた。しかも、ITシステムに対する社内のマインドは、「身の丈志向」「SAPアレルギー」がはびこっていた。

 「身の丈志向」というマインドは、2014年以降のパナソニックから独立する過程において、早期に自立した事業基盤を構築する必要があったからだという。また「SAPアレルギー」は、2015年に医療機器工場で安定稼働しているSAPシステムを横展開するプロジェクトが原因になった。原因はさまざまだというが、結果的にプロジェクトは失敗し、工場の生産能力を大幅に割り込んでしまうなど、1年近くにわたって現場業務が混乱した。

 同社が独立から成長へ舵を切らねばならないステージで、こうしたITに対する負のマインドは大きな足かせになりかねない。IT部門は現在のシステムが問題無く稼働しており国内は対応で手一杯という感覚でいた。ユーザー部門は本業に専念したいし、経営層にとってはM&Aが優先課題でITなどの整備は後回しという感覚だったという。そこで峰島氏は、「IT部門」「ユーザー部門」「経営層」の3段階で、全社のマインドと一体的にITのアーキテクチャーの変革を目指したという。

 まず峰島氏は、2023年度における事業ポートフォリオごとの業績目標とM&Aやアライアンスといった想定される経営施策をとりまとめ、そこでITシステムに求められる基本要件を示した。例えば、「社内のシームレスなデータ連携」「M&A企業を早期に連結会計に取り込む」「M&A企業と商品流通の相乗りを早期に実現する」「外部パートナーとのデータ連携を容易に実現する」――といった具合だ。

 さらに、アーキテクチャー要件を“仮説”として提示し、複数の最新ERPシステムについて理解を深めるようにした。その結果、IT部門は既存のシステムアーキテクチャーでは要件への対応が難しく、ポートフォリオをまたぐ共通のERPシステムや連結会計システム、CRMシステムを中核とする新しいアーキテクチャーの必要性を認識したという。

 また、ユーザー部門に対しては“SAPアレルギー”を緩和してもらうためのワークショップを全国の拠点で開催、経営企画や経理、販売、顧客サポート、サプライチェーン、生産、調達などの数百人の担当者が参加した。ERPベンダーによるプレゼンテーションなども行った。結果的に、SAPを見直す声やIT基盤の刷新の必要性を提起する声も挙がるなど効果があったとした。なお峰島氏によれば、SAPがプレゼンテーションで自社優位性を強調する一方、別のメーカーのプレゼンテーションにユーザー部門が感銘を受け、財務責任者や経営企画責任者がそのメーカーの支持に傾きかける“想定外”もあったという。

 経営層向けに峰島氏は、取締役会などの場でM&Aの成長戦略と同時に、2023年までに約500人が定年退職を迎えることや、株式上場を経営課題として提示し、そのためにはグローバルでの業務プロセスやITシステムなどの標準化と、業務効率の向上が不可欠であることを説明した。最終的に、こうした「身の丈志向」マインドを変える取り組みを通じて最高財務責任者から承認を得た。

 峰島氏は、自身の取り組みだけではなく、同氏の提案などに耳を傾けてくれたり、よりよい意見を寄せくれたりするといった同社の企業文化も大きな支えになったと語った。最高経営責任者とは隔週でミーティングを行い、各役員や工場長、地域ごとの業務責任者とも頻繁にミーティングをして意見交換などを心がけたという。

 同社は、2019年1月と5月に2件のM&A実施を発表し、成長戦略を推進している。今後は2020~2021年度に各種の統合とヘルスケア事業の基盤構築を進め、2022年度以降はこれを成長のエンジンにしていく計画だ。峰島氏は、この間も“仮説”として提示したITのアーキテクチャーを常に見直しながら、柔軟に追加や変更をかけていくという。

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