AIによるネットワーク運用自動化を推進--Mist Systems買収のジュニパー

渡邉利和

2019-07-22 10:13

 ジュニパーネットワークスは7月19日、Mist Systems買収による国内のビジネス戦略と、最新の製品に関するプレス向け説明会を開催した。米Juniper Networksは、3月4日にMist Systemsの買収を発表し、4月1日付で買収完了している。

 Mist Systemsは、ビーコン技術の「vBLE(Virtual Bluetooth Low Energy)」と人工知能(AI)技術を活用したクラウド型の無線LANソリューションを手掛けるベンチャー。まず、ジュニパー側の視点で技術統括本部長の加藤浩明氏が説明した。同社は、無線LAN事業を一時期手がけていたがその後に撤退していたため、今回のMist Systems買収で再参入する形になるという。「エンドツーエンドの“AIドリブンエンタープライズ”を提供可能になる」(加藤氏)との位置付けとした。

ジュニパーネットワークス 技術統括本部長の加藤浩明氏
ジュニパーネットワークス 技術統括本部長の加藤浩明氏

 同社は、以前からネットワークの運用管理にAIを活用して、高度な自動化を実現することに取り組んでいる。かつては「Self-Driving Netwok」というコンセプトを掲げていた。一方でMist Systemsは、AIを活用したクラウド管理型Wi-Fiシステムを提供する企業であり、Wi-Fi限定ながら、まさにジュニパーが目指す「AIを活用したネットワークインフラの運用管理」を実現している企業に当たる。

ジュニパーが考える、エンタープライズネットワークにAIがもたらすメリット(出典:ジュニパーネットワークス)
ジュニパーが考える、エンタープライズネットワークにAIがもたらすメリット(出典:ジュニパーネットワークス)

 加藤氏によれば、このAIを中軸に据えた両社のビジョンの合致が、今回の買収の背景になるという。同氏は現在、ジュニパーが掲げる「AIドリブンエンタープライズ」というビジョンについて、「エンタープライズはAIでドライブする時代になる」とし、「ネットワーク基盤に『クラウド+機械学習+AI』を採り入れ、運用の自動化・負荷軽減を実現する」とした。

Mist Systems 共同創設者 社長兼CEOのSujai Hajela氏
Mist Systems 共同創設者 社長兼CEOのSujai Hajela氏

 続いてMist Systemsの共同創設者で社長兼CEO(最高経営責任者)を務めるSujai Hajela氏が、同社の概要を紹介した。Hajela氏は、現在のエンタープライズ市場で運用されている無線LANの基本的なアーキテクチャーは約15年前に開発された古いものだと指摘、その一方でこの間に無線ネットワークに接続されるユーザーやデバイスの数は急増し続けていることから、もはやAIの支援なしでは効率的な運用管理は不可能だと語った。

 また、「もはや“つながる(up)”だけでは不十分だ」とも指摘し、通信品質を踏まえたユーザーエクスペリエンスの維持が重要だとしている。同社では、無線ネットワークを構成するアクセスポイントやスイッチ、ルーターといった機器が「稼働しているかどうか」というレベルにとどまらず、個々の端末ごとの通信状況や遅延の程度などを詳細に把握することで、「個々のユーザーが体験しているサービスの品質」を踏まえたサポートが可能だとする。この点がHajela氏のいう「15年前の技術」という他の無線LANアーキテクチャーとの違いになる。

MistとJuniperが一緒になることで、エンドツーエンドのサービス全体にAIを組み込むことが可能になるという(出典:ジュニパーネットワークス)
MistとJuniperが一緒になることで、エンドツーエンドのサービス全体にAIを組み込むことが可能になるという(出典:ジュニパーネットワークス)

 なお、現在ではAI技術を活用したネットワーク管理を標榜する競合他社も存在しているが、Hajela氏の見解では、それらはまだ端末レベルでのユーザーエクスペリエンスのレベルまでは管理対象にしていない点で、まだ同等ではないという。

 この他に6月27日付で発表した新製品についても紹介した。Wi-Fi 6対応アクセスポイントとなる「AP43」は、“AI for AX”を標榜しており、「802.11ax規格とAIを組み合わせたアクセスポイント」だという。802.11ax(Wi-Fi 6)で導入される新機能をいち早く同社のAIでもサポートしている点が特徴になる。

新製品「AP43」の主な特徴(出典:ジュニパーネットワークス)
新製品「AP43」の主な特徴(出典:ジュニパーネットワークス)

 Mist Systemsに関しては、2018年初頭頃に日本市場での製品導入が活発化し、さらに2018年末には日本法人を設立するなど、日本での事業を本格的にスタートしたところだった。今回のJuniperによる買収を受け、改めてWi-Fi 6世代での製品展開を積極的にアピールしていくという流れになるようだ。なお同社の関係者によれば、買収以前の約1年の間に国内では約50社のユーザーを獲得したといい、日本市場での事業展開は順調だったそうだ。

 Mist Systemsの技術は、vBLEを活用した精細な位置情報取得サービス(1~3mのロケーション精度)がよく知られているが、国内ユーザーの間では、この機能の本格的な活用はまだこれからという段階にあり、現時点ではAIを活用した運用管理の自動化や品質向上が選択の決め手になった例が多いとしている。

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