能楽協会と日本能楽会は7月31日、「ESSENCE能 見どころ!ぎゅっと凝縮・能楽アンソロジー」(ESSENCE能)の「バリアフリー対応」公演を国立能楽堂で開催した。デジタル技術で能楽の体験を高度化する実証実験という位置付けで、技術面で支援する富士通と能楽協会のパートナーシップ契約締結の会見も行われた。
バリアフリー対応公演では、富士通のユーザーインターフェース「Ontenna」、半導体レーザーを手がける企業QDレーザのヘッドマウント型ディスプレイ(HMD)「RETISSA Display」が貸し出され、狂言 和泉流「蝸牛(かぎゅう)」、能 喜多流「舎利(しゃり)」が披露された。狂言と能を総称したものが能楽だという。
「蝸牛」公演の様子(出典:能楽協会、富士通)
Ontennaは、主に聴覚障がいのある人向けのサービス。デバイスを髪の毛や耳たぶ、襟元、袖口などに付けると、振動と光によって音の特徴を利用者に伝えられるため、能楽の鑑賞にも生かせるとしている。バリアフリー対応の公演では、全ての参加者にOntennaが貸し出された。記者が体験したところ、デバイスが音の大きさに合わせて振動が激しくなるため、特に見せ場では激しく揺れる(なお、今回は発光機能を利用していない)。それほど大きくない音にも反応して公演中によく振動していたものの、違和感を覚えさせるほどではなく、健常者も装着できるという。
Ontennaの外観。襟元に付けると振動が胸に響き、心地よかった
一方RETISSA Displayは、視力に課題のある人や外国人観光客向けのサービスとして利用されている。HMDを眼鏡のように装着すると、映像が目の網膜に直接投影されるため、ピントの位置や視力の影響を受けにくい。これまで外国人観光客への対応として、公演会場では利用者の前方席の背面に設置したディスプレイに英語字幕を表示していたが、舞台とは違う向きに視線を移す必要があったという。
RETISSA Displayは字幕を風景に重ねてHMD内に投影するため、利用者は舞台に視線を合わせたまま字幕を見ることができる。HMDは超小型プロジェクターがフレームの内側に搭載されており、微弱なレーザー光で網膜上をスキャンすることで、網膜に直接映像を投影する仕組みだ。
ロビーにはRETISSA Displayも展示
ESSENCE能は、能楽協会と日本能楽会が2020年7~9月に12日間にわたって開催予定の「東京2020オリンピック・パラリンピック能楽祭」に向けた実証実験として行われる。7月31日の公演では、ろう学校の生徒と保護者14人にOntenna、視覚に課題がある4人にRETISSA Displayを体験してもらい、富士通とOntennaは参加者からのフィードバックを今後に生かすという。