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2020年以降のPC停滞を乗り超える戦略--レノボ・ジャパンのベネット社長

大河原克行

2019-08-22 06:00

 電子情報技術産業協会(JEITA)によると、2019年4~6月の国内のPC出荷は、前年同期比35.5%増の216万7000台と好調で、さらに勢いを増しそうだ。Windows 7のサポート終了(2020年1月)や消費増税(2019年10月)を前にした駆け込み需要が大きな理由だが、それ以外にも働き方改革や教育向けPCの整備、ゲーミングPCの人気など、需要を喚起する要素が目白押しだ。

 だが、2020年以降のPC市場の停滞を予測する声もある。NECパーソナルコンピュータ 代表取締役執行役員社長 兼 レノボ・ジャパン 代表取締役社長のDavid Bennett氏は、「市場が縮小するのであれば、それはリーダーであるわれわれの責任」と語る。国内PC市場でトップシェアを誇り、自らも働き方改革に率先して取り組むBennett氏に聞いた。

NECパーソナルコンピュータ 代表取締役執行役員社長 兼 レノボ・ジャパン 代表取締役社長のDavid Bennett氏
NECパーソナルコンピュータ 代表取締役執行役員社長 兼 レノボ・ジャパン 代表取締役社長のDavid Bennett氏

--国内PC市場が堅調な伸びを見せている。国内トップのPCベンダーとして、この動きをどう捉えているか。

 2020年1月のWindows 7のサポート終了や2019年10月の消費増税前の駆け込み需要に加えて、政府が主導している働き方改革に最適化したPCを導入したいといった機運もプラスに影響している。また、2020年度からの小中学校におけるプログラミング教育の実施に向けて、教育という切り口からの導入も始まっている。さらに、インテルのCPUの供給不足の問題も結果としてプラス効果につながっている。PCを購入しなければならないなら、製品があった時点で計画よりも前倒しで導入しようという機運が生まれている。これらの相乗効果が、日本におけるPC市場の成長につながっている。

--この勢いはいつまで続くのか。

 PCの出荷台数は、2017年よりも2018年、2018年よりも2019年というように、右肩上がりで、この成長率はかなり大きなものになっている。レノボも2018年は法人市場で前年比50%増と、国内PCメーカーの中で最も高い成長を遂げている。ただ、2020年後半には、国内PC市場全体の需要が減速するのは明らかだ。しかし、Windows XPのサポート終了(2014年4月)直後のように、市場規模が6割にまで縮小するといったようなことは起こらないだろう。

 日本市場では、軽量、薄型といったプレミアムモデルの売れ行きがいい。販売台数が減少しても、販売金額の落ち込みはそこまで大きくはない。また、働き方改革に向けた需要があることも追い風になる。テレワークをするにも、そのためのPCを整備しなくてはならない。さらに、日本の教育分野における生徒1人当たりのPCの台数は少なく、統計では生徒6人に1台という状況だ。政府は、2022年までに3クラスに1クラス分のPCを導入することを打ち出しており、それに伴って導入が促進されることになるだろう。

 その他にも、ゲーミングPCの人気の高まりや、IoT、エッジコンピューティングに対するニーズが高まるという期待もある。ビジネス向けは一定の規模を維持できるはずだ。市場が大幅に縮小するのであれば、それはトップシェアメーカーであるわれわれが、市場の期待に応えるものを出せていないということ。顧客が買いたいと思ってもらえるものを出すことに投資をしている。

--そのための製品をどのように品ぞろえするのか。

 働き方改革、ゲーミングPC、教育、IoT、エッジコンピューティングといったそれぞれの領域において、最適な製品を品ぞろえしていくことになる。例えば、働き方改革では、PCを持ち運んで利用するために軽量化したり、薄型化したり、LTEに対応したりといったことに加え、オーディオ/ボイス機能にこだわり、オンライン会議の際に、部屋のどこに座っても、相手の声を鮮明に聞きとることができ、しっかりと音を拾うことができるようにした。

 さらに、会議室に設置するオンライン会議システム「ThinkSmart Hub」は、国内では100社以上に導入されており、持ち運びできるポータブルコンファレンスデバイスの人気も高まっている。PCは、これまで生産性向上のためにツールだったが、今はそれに加えて、コミュニケーションツールとしての役割も重要になってきている。

 教育分野では、1台5万円前後のPCを整備していきたいという政府の方針に対して、それに対応したPCも出していく。だが、教育PCの整備予算が地方自治体の財源に委ねられるため、温度差が出ることが懸念される。さらに、教育分野ではWi-Fiの環境が整っていないという課題もある。それに、学校内のサーバーのメンテナンスがなされていない環境が多く、クラウド活用の提案も必要になる。こうした課題を解決するために、LTE対応PCを中心にしてパッケージ化した製品を用意する必要もあるだろう。このように、使う環境をしっかりと捉えた製品を出し、顧客の課題を解決する製品を投入していくことになる。

 一方でゲーミングPCは、レノボ・ジャパンが「LEGION」ブランドで展開しており、これ加えて、新たにNECのゲーミングPCを製品化するために「プロジェクト炎神(エンジン)」をスタートした。こうした取り組みが、買いたいと思ってもらえるPCを創出し、市場の縮小に歯止めをかけることにつながる。

--インテルのCPUの供給不足はビジネスにどんな影響を及ぼしているか。量販店では、AMDを搭載したNECブランドのPCが好調のようだが。

 レノボは世界最大のPCメーカーであり、グローバルスケールを生かした調達が可能だ。もちろん供給状況は厳しく、年末まで続く可能性がある。だが、レノボグループは日本の市場を重視しており、NEC PCおよびレノボ・ジャパンに積極的に割り振っており、あまり影響はないだろう。

 一方、シングルソースのビジネスリスクを回避するために、AMD搭載モデルを用意した。量販店で主力となる15型ノートPCや販売店向けモデルに、いち早くAMDを搭載した。AMDのRyzenに対する関心が高まる中で、コンシューマーの顧客が選択した結果、NEC PCにおけるAMD搭載モデルの比率が上昇した。

 だが、法人向け市場ではインテルに対するニーズがまだ根強い。私自身、かつてAMDに在籍していたが、その時も違いをしっかりと理解し、検証を行った大手企業では導入をしてもらっていた。それでもインテルのブランドは強く、製品もいい。中小企業では、インテルを求める傾向にある。法人向け市場では若干AMDの比率が上昇しているに過ぎない。あくまでもPCメーカーとして、選択肢を用意すること、シングルソースのリスクを回避する狙いから、AMD搭載モデルを用意している。

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