人材定着が働き方改革のカギ--シトリックス社長の尾羽沢氏

國谷武史 (編集部) 2019年09月09日 06時00分

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 4月にシトリックス・システムズ・ジャパンの代表取締役社長に就任した尾羽沢功氏は、日本企業で進む働き方改革について、「定性的ではなく定量的な成果を示すことが意識改革につながる」と話す。同社は近年、「The Future of Work」「Intelligent Workspace」をコンセプトに掲げ、主力製品の仮想デスクトップ基盤(VDI)と「Citrix Networking(旧称:NetScaler)」などのネットワーク製品を組み合わせたソリューションを展開する。尾羽沢氏に事業戦略などを聞いた。

シトリックス・システムズ・ジャパン 代表取締役社長の尾羽沢功氏。インフォアジャパンやJDAソフトウェア・ジャパンの代表取締役社長を務めるなどアプリケーション領域の事業経験が長く、シトリックスの変革を担うという
シトリックス・システムズ・ジャパン 代表取締役社長の尾羽沢功氏。インフォアジャパンやJDAソフトウェア・ジャパンの代表取締役社長を務めるなどアプリケーション領域の事業経験が長く、シトリックスの変革を担うという

--就任からこれまでの手応えはいかがですか。

 最初の2カ月で顧客とパートナーをあいさつして回り、総じて私たちの今後に対する期待の声をいただきました。おかげさまでビジネスは好調に推移しています。入社前のシトリックスには「VDIの会社」というイメージを持っていましたが、いざ入社してみると、VDIとネットワークを中心としつつも、全社で「Intelligent Workspace」を実現していくという意識が強く、だいぶイメージが変わりました。現在はこれをけん引する立場でもあり、全社の方向性を強く感じています。

--VDIの事業が好調とのことですが、シトリックスの掲げるコンセプトは顧客やパートナーにも浸透しているのでしょうか。

 このコンセプトは、従業員の生産性を高めてより良い働き方を実現していくというもので、私たちの方向性が変わりつつあることを顧客やパートナーも認識してくれていると思います。ただ、VDIやCitrix Networkingといった従来のビジネスが引き続き好調ですから、それらを踏まえて顧客やパートナーにもっと提案していかなければならないとも考えています。現在はまだ変化の途中にある認識しています。

--国内では企業の働き方改革が盛んに叫ばれていますが、これはシトリックスのビジネスにとって追い風になっているのでしょうか。

 国内市場は私たちにとって良い状況といえます。ほとんどの顧客が従業員との関係性をもっと深め、より働きやすい環境を整えて生産性を高めたいという意識を持つようになりました。ITを活用し、企業風土のレベルから環境を変えようと動いています。

--シトリックス社内の働き方改革も進んでいるのでしょうか。

 私たちのプロダクト自体が働き方改革を支援するもので、長年自社でも使用しており、他社よりテレワークなどの柔軟な働き方がしやすい環境かもしれません。そのため、一気に進んだという感覚はありませんが、近年は今までテレワークなどをあまりしない社員にも利用を促しています。育児などで少しの間だけオフィスを離れるようなことも柔軟にできるのですが、そういった体験や成果をこれまで社外にあまり発信できておらず、今後はもっと積極的に紹介していきたいと考えています。

 多くの企業は、働き方改革の効果を定性的にしか感じられず、残業時間が減少したといった指標でしか判断できていません。現場レベルでは多くの従業員が働き方改革の効果を実感しているはずですが、それをマネジメント側が数値として把握できていないため、働き方改革を本気で進めるという意識が十分に浸透していません。

 そこでIntelligent Workspaceの製品では、データアナリティクスのアプローチによって、働き方変革の成果を数値で定量的に示せるようにしたいと考えています。

 例えば、企業では多数のアプリケーションが使われ、従業員はアプリケーションごとに異なるIDやパスワードを使ってアクセスし、都度タスクを確認して作業します。しかし、中には時々にしか使わないアプリケーションもあり、ついパスワードを忘れてしまって、リセットするなどの対応も生じます。こうしたことを分析すると、実に毎日の労働時間の2割が費やされており、1週間で見れば丸一日分の労働時間に相当することが判明しました。

 Intelligent Workspaceでは、従業員がシングルサインオンであらゆるアプリケーションへすぐにアクセスできるようにし、デスクトップにログインすれば、システム側から必要なタスクをポップアップで提示して素早く処理できるように支援します。無駄な作業を効率化して従業員がもっとなすべき業務に集中することで生産性が向上したり、あるいは残業時間を減らしたりできた成果を定量的に示して数字で分かれば、マネジメント側の意識変革を促せるでしょう。

--IT部門側としても、働き方改革への対応を含めて生産性を高めるために、新しいシステムやツールを導入したいと考えますが、既存のシステムやアプリケーションなどの資産を抱えたままではなかなか難しいのではないでしょうか。

 顧客のCIO(最高情報責任者)にとっては、これが最大の悩みだと思います。複雑化、サイロ化した古いIT資産を新しくしたいと考えても、どこから着手すべきか分からないという声も聞きます。

--そういう現状では、クラウドベースの新しい仕組みより、VDIが現実的なソリューションとして受け入れられ、シトリックスのビジネスにもなっているのではないでしょうか。

 確かにそういう現実はあります。ただ、私たちとしては、あくまでVDI製品をサーバー側ではなくデスクトップ側、つまりは「人」を中心に開発してきました。Intelligent Workspaceもその延長線上にあり、ユーザーやデバイスを中心にして、これからの新しい働き方、「The Future of Work」のコンセプトを体現しようとしており、その意味では、他のVDIソリューションとは違います。

 また、一部の大企業ではインターネット分離などのソリューションも導入されていますが、全社導入のような事例は聞きません。ある企業では、私たちのVDIを導入していない部門でセキュリティ侵害のインシデントが発生したという事例があり、セキュリティ対策の観点からもVDIニーズは引き続き強いと見ています。

--Citrix Networkingなどネットワーク製品のビジネスはどうでしょうか。

 現在のネットワーク製品は、セキュアなIntelligent Workspaceの環境を支援する存在と位置付けており、ソリューション全体で提案するようになってきました。もちろん、従来のADC(アプリケーションデリバリーコントローラー)として販売もしていますが、基本的な方向性はIntelligent Workspaceになります。

 その一環で近年はSD-WANに注力し、たくさんの顧客から引き合いをいただいています。MicrosoftのOffice 365の導入企業が増えており、いざ利用が広がるとネットワークの性能に課題が出てしまい、驚いてしまう企業が多いようです。シトリックスは歴史的にMicrosoftと緊密な関係にありますから、ネットワークの性能を高める点でMicrosoftが私たちのSD-WANを推奨しているという部分もあります。

--今後の目標はいかがでしょうか。

 2019年の上半期は前年比で30%ほど成長しました。下半期はIntelligent Workspaceの提案を推進していきます。欧米市場ではIntelligent Workspaceにまつわる製品の売上構成が高まっているのですが、日本はまだ従来製品の比重が高く、Intelligent Workspaceを活用して生産性を高め、新しい働き方を実現していく流れをパートナーと一緒に作りたいところです。そのためにコンサルテーションサービスなどを提供できるような体制の強化も検討しています。

 働き方において最も重要なことは、従業員が会社を辞めないことだと思います。少子高齢化で多くの企業が人手不足に悩んでおり、社員が辞めてしまうと、新規採用もできません。そこにわれわれが何らかのソリューションになるかもしれませんし、例えば、VDI導入が進んでいない分野でも現場業務でタブレットを使っているなら、Intelligent Workspaceの活用を提案できるのではないかと考えています。

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