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良い文章とは何か--情報デザインの視点で文章のエクスペリエンスを考える

綾塚祐二 2019年09月09日 07時00分

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 以前も書いたが、人は仕事でも日常の暮らしでも、多種多様な情報をやりとりしながら生きている。情報を伝えるとき、伝えるべきことを「どう伝えるか」はとても重要であり、情報の伝え方を設計することは「情報デザイン」と呼ばれる。

 情報デザインというと、ウェブサイトや案内板、プレゼン資料のデザインなどが取り上げられることが多いが、文章を書くときや口頭で話をするとき(スライドなど見せるものがない場合も含め)にも情報デザインは必要である。そして、「文章を読む」「話を聞く」という行為にも、もちろんユーザーエクスペリエンス(UX)を当てはめることができる。今回は文章におけるエクスペリエンスを考察する。

良い文章とは

 一口に「文章」といっても、淡々と事実を説明するようなものから、何かを論じ意見を述べるもの、情緒的なものなどいろいろとある。これらの種類やその目的の違いはここで説明するまでもないと思うが、ひとつの見方としては考慮すべきエクスペリエンスのポイントが違うものとして捉えられるだろう。同じ文や文章でも、目的や状況が違えば良いエクスペリエンスにも、悪いエクスペリエンスにもなり得る。すなわち、何が「良い」文章かは目的や状況によって変わり得るのである。

 とはいえ、多くの文章では、特に一文一文のレベルにおいて、まず基本的に考えるべきことは共通している。伝えるべき情報の選択と順序の設計である。読者のモデル(知っているであろうこと、既に伝えたこと、それに対する理解度など)を考え、その時点で読者の意識はどこの何に向いているかを考え、伝えることやその順序を考える必要がある。

 伝える順序の基本は「概要から詳細展開」の流れと「前提から論理展開」の流れの二種類である。伝えたい項目が幾つかあるときには、まず、それらの間に何らかの依存関係や参照関係があるか、それとも並列に近い関係にあるかを整理する必要がある。依存関係や参照関係がある場合は、なるべく「まだ説明していない項目」を参照・言及しないで済むような順序で伝えないと、読む・聞く側の負荷が上がる。

 論理的なつながりがある場合はもちろん、論理の展開に沿った順にすべきであり、そうでないと読む・聞く側は迷子になりやすい。ただし、「結論」に当たる部分がある場合は、最初に前提から結論までを「概要」としてまず伝える方がよい。特に結論へ至る道筋が長い場合には「行きつく先」が見えていないと、正しい道をたどっていたとしても迷っている感覚が生じてしまいやすい。

 各項目が並列に近い場合、それらをまとめた概要や見出し的なものがあれば、それを先に伝えるのがよい。項目が複数のグループに分けられたり、あるいは、依存や参照ではないが何らかの分かりやすい順序などがあったりする場合は、そのグループのまとまりや順序を崩すと違和感を与えることになる。

エンターテイメントの場合

 小説など、娯楽要素の強い文章の場合には、あえて曖昧な部分を残したり、読者を迷わせたり、意図的に誤解するよう仕向けたりすることもある。例えば、ミステリー小説の世界では、一部の重要な事実を伏せておいたり、読者の思い込みを利用して曖昧な描写を曖昧と気づかせないように書いたりすることにより、後でそれを明かして大きな驚きを与える「叙述トリック」と呼ばれる手法がある。

 こうした手法なども「何を伝えて、何を伝えないか」「どう伝えると読み手はどう理解するか」などをきっちりと考え、適切に文章を作っていかないと機能しない。しかも、トリックが成り立つためには、最終的には読者がそれを見落としていたことまで含めて理解し納得せねばならないので難易度は非常に高い。

 それほど大掛かりでなくとも、フィクション作品ではその作品内の設定をいきなり事細かに全て説明するのではなく、ストーリー展開に必要な部分からいかに無理なく読者に伝えていくかは重要である。読者にもたらそうとするエクスペリエンスの種類は説明文や論説文とは全く異なるが、読み手の意識がどこにあるかなどを考えつつ文を組み立てて行かねばならないという点は同じである。

流れとギャップ

 淡々と事実や論理を説明する必要のあるフォーマルな説明文や論説文、あるいはマニュアルのようなものであれば、曖昧さが残る部分や迷う部分、誤解しやすい部分はなるべく(できれば完全に)排除せねばならない。しかし、教育や啓発などを目的とする説明などの場合には、それだけを考えていると読者が途中で興味を失ったり注意が散漫になったり、理解を諦めたりしてしまうかもしれない、ということも考慮せねばならない。

 興味の喪失などを避けるためには、(適切な範囲内で)流れの中にギャップを入れたり、意図的に迷わせたりする方法がある。人間は意外に思ったり、疑問を抱いたりすることで注意を払い、興味を持つきっかけになる。また、印象も強くなることも多い。

 もちろん、そのような効果は、全体としてきちんとした流れが作られている中で、重要なポイントにだけ用いることで発揮されるものであり、むやみに使うと単に読みづらい文章となってしまう。ギャップの度合いなども加減を間違えると単に読者の混乱を招くだけに終わるので、使いこなすには少なくともフォーマルな説明的文章を十分に書き慣れている必要がある。

 加えて、そうした注意の引き付け方がうまく機能していると感じる文章やプレゼンテーションなどを多く読んだり聞いたりすることも必要だろう。もちろん単に読む・聞くだけでなく、どういうポイントでどうやって興味を惹きつけているかなどをよく分析するようにせねばならない。

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