独SAPは10月8~10日にかけて、スペイン・バルセロナで開発者向けイベント「SAP TechEd Barcelona 2019」を開催した。8日には取締役会メンバーで最高技術責任者(CTO)を務めるJuergen Mueller氏が基調講演に登壇し、「SAP HANA Cloud」などを発表した。
取締役会メンバーで最高技術責任者(CTO)を務めるJuergen Mueller氏
例年、SAP TechEdの基調講演は、CTO兼プレジデント(当時)のBjörn Goerke氏がホスト役を務めていたが、2019年初めに同氏が退社したことから、新CTOのMueller氏が約5000人の聴衆を前に初めての大舞台に臨んだ。
Mueller氏はまず、SAPが注力している「インテリジェントエンタープライズ」を中心に最新の取り組みを紹介した。
2019年初めにQualtricsの買収を完了し、インテリジェントエンタープライズに「体験データ」(Experience Data:Xデータ)を加えた。Xデータは「なぜ起こったのか」を理解するためのデータであり、従来のERP(統合基幹業務システム)などから収集する「運用データ」(Operation Data:Oデータ)と組み合わせ、組織全体にインテリジェンスを組み込むというのが現在の戦略になる。
TechEdでは、オペレーションとインテリジェンスを中心に新機能が発表された。
SAPのインテリジェントエンタープライズ
SAP Analytics CloudとSuccessFactorsが統合
オペレーション領域に関しては、アナリティクス基盤「SAP Analytics Cloud」と人事クラウド「SAP SuccessFactors」の統合が発表された。2019年第4四半期のリリースで対応となる。SAP Analytics Cloudは、ビジネスインテリジェンス(BI)機能やプランニング機能などを備えたSaaSで、製品の統合を進めてきた。9月に米ラスベガスで開催された「SAP TechEd LasVegas」では、「SAP S/4HANA」との統合が発表されており、これに続くものとなる。
これまでSuccessFactorsの人事データを分析する顧客は、複数のツールを使い分ける必要があった。機密性の高い人事情報の取り扱いには懸念があったが、SuccessFactorsに分析機能を組み込むことでこの問題を解消する。単一のツールからSuccessFactorsののライブデータにアクセスしてレポートやプレゼンテーションの作成に活用できるという。
SAPは“One SAP”として、SuccessFactorsや経費精算サービス「SAP Concur」などのツールとの連携を強化している。オペレーション領域では、調達サービス「SAP Ariba」と連携して調達から支払いまでのプロセスをつないだ様子を紹介した。対話型AIを利用して、ユーザーがシステムを意識せずにプロセスを完了させる模様も披露した。
SAP HANAのDBaaS「SAP HANA Cloud」発表
インテリジェンス領域は多くの機能強化が加えられた。同領域は(1)データベースとデータ管理、(2)アプリケーション開発とインテグレーション、(3)アナリティクス、(4)インテリジェント技術――の4つで構成され、Mueller氏は“ビジネスインテリジェントプラットフォーム”というキーワードを打ち出した。
中でも、(1)は、インメモリーデータベース「SAP HANA」を土台としたDBaaS(Database as a Service)「SAP HANA Cloud」を発表した。Kubernetes上で動くクラウドネイティブ実装で、コンピュートとストレージを別々に拡張できる。「SAP HANAのパワーと性能に、クラウドの拡張性を組み合わせる」とMueller氏。オンプレミスとクラウドを組み合わせることもできるという。従量課金制で利用でき、「TCO(総所得コスト)は他のどのHANAシステムよりも低くなる」という。SAP HANA Cloudは2019年内に提供を開始する。
もう一つの発表として、5月の「SAPPHIRE NOW 2019」で発表されたデータウェアハウスサービス「SAP Data Warehouse Cloud」が2019年第4四半期に一般提供されることも明らかにした。データ仮想化やレプリケーションの技術によって、データを動かすことなく分析などを活用可能になる。一般提供(GA)が発表されると会場からは大きな拍手が起こった。
SAP HANA Cloud、SAP Data Warehouse Cloud、SAP Analytics Cloudは、SAP Cloud Platformを土台とした「SAP HANA Cloud Services」の一部となる。「HANAは進化を遂げてきた。新しいステップとなる」とMueller氏は意義を語った。
SAP HANA Cloud Services。SAP Data Warehouse Cloud、SAP HANA Cloudなどが含まれ、データの管理やアクセスのためのソリューションセットとなる
なお、(3)については、オンプレミスの「SAP BusinessObjects BI 4.3」のベータ版を12月に公開することも発表している。
「データ駆動型の企業になるためには、データをコントロールする必要がある」とMueller氏。データは量・品質・使用という3つの要素が掛け合わさって初めて価値になるとし、SAPではそれぞれに対して製品や技術を有しているという。
データから価値を引き出すための公式。SAPは必要なソリューションを備えるという
これらの強化は、データの活用という企業の長年の課題解決に向けた取り組みとなる。Mueller氏は、「最速の方法でデータから価値を得る方法を提供したい。そのためにSAP自身も戦略と文化を変化させた」と述べた。
(取材協力:SAPジャパン)