クラウドやアジャイル開発の活用でビジネスを加速――分かっていても、実現するのは簡単ではない。そこで、顧客に価値を提供することを起点にクラウドとアジャイル開発を活用する中堅ハウスメーカーのアールシーコアを紹介しよう。同社の執行役員の宮本眞一氏に話を聞いた。
まずは、写真を見ていただこう。
ログハウスBESSの家
アールシーコアは、「住む」より「楽しむ」のブランドスローガンのもと、この写真のような、ログハウスなど自然材を用いた個性的デザインの住宅ブランド「BESS」を提供している。インスタグラムの「#Bessの家」というハッシュタグでは、実に12万件もの写真がヒットする。この大半が、ユーザーによるものだという。
同社はこのBESS事業を中核として、全国43拠点に直販およびフランチャイズの展示場・地区販売会社を展開している。新築着工件数が減少する中、このような自然派住宅を年間約1000棟建設し、2018年には累計1万8000棟を達成した。設立から34年目、社員数は連結で約260人と、中堅ハウスメーカーとして存在感を発揮している。
同社の経営企画部で情報システムチームを統括するのが宮本眞一氏だ。約1年半前に入社し、同社の感性マーケティングを支えるデジタル活用を推進してきた。実は前職で、大手ハウスメーカーで情報システム部門のトップを務めていた。当時は珍しかった、パブリッククラウドへの基幹システムの導入などを推進しており、多くのメディアの導入事例などに登場していたので、覚えている人もいるだろう。
アールシーコア 執行役員 経営企画部責任者兼部材センター責任者の宮本眞一氏
では、中堅企業で、マーケティングやブランディングが主導する、クラウドとアジャイルによるシステム活用とはどのようなものだろうか。
--住宅業界の主流とBESSの方向性の違いはどのようなものでしょうか。
長年住宅業界にいましたので、BESSのことは以前から知っていました。実際に入社し、実物を見て度肝を抜かれました。
というのも、一般的なハウスメーカーは便利さや快適さを追求しますが、BESSは、暮らしを楽しむための家、道具としての家を提案しています。ログハウスなので、メンテナンスに手間がかかりますし、建てて数年が経つと木材の乾燥が進み、住宅の自重で高さが変化します。そういった自然の変化の中で暮らすことに、楽しさと価値を見出す人たちに向けたライフスタイルを提供しています。そのような会社の理念と方針に共鳴して入社を決めました。
私の役割は、経営企画部の中で情報システムのチームをまとめ、また、住宅メーカーとして資材の手配・工場での加工・トラックによる配送など、サプライチェーンマネジメント全般を管理する部材センターの責任者を兼務しています。当社の製品は寿命が長くメンテナンスの部品も必要になります。長年住むお客さまの期待にも応えるため、企業規模に比べて、細かなことまで手掛ける必要がある部分がたくさんあります。
--BESSに求められるITシステムの姿はどのようなものですか。
情報システムチームは4人です。規模が小さく、自ずと取り組めることも限定されるのではと危惧していましたが、重要な点は人数ではなくコンセプトだということに気が付きました。
例えば、当社の人事関連の業務では、勤怠システムや人事管理システム、退職金や給与の計算がそれぞれバラバラの仕組みで管理されています。長年ITに関わってきた経験から見ると、情報システム部門としては一元的な仕組みにして業務プロセスを効率化するのが良いと思いがちです。しかし、実際のところ、当社の場合はどちらでもよかったのです。新たな付加価値を生まない領域に多くのリソースを投じて仕組みを作ることは、それほど重要ではありません。
本当に大事なのは、お客さまの幸せを拡大する新たな価値を創造することだと改めて気付きました。ビジネス部門と議論をしてみて、必要ならITシステムを作ってもいいし、場合によれば作らなくてもいいわけです。システム開発それ自体が目的ではありません。当社が目指す価値をお客さまに届けるための業務に貢献することが重要です。それでも結果的に、ITシステムを作ることで業務に貢献するポイントがいろいろと見つかりました。
--クラウドだから実現できることは何でしょうか。
そこで、17のITシステム開発に同時並行で取り組むことになりました。この規模でもスピード感を持って取り組めるのは、クラウドならではだと思います。
まず、老朽化した会計の仕組みを更新して、Amazon Web Services(AWS)に移行しました。これは半年で終えることができました。そしてその頃、BESSの熱心なファンのお客さまが、購入を検討しているお客さまにアドバイスをする「LOGWAYコーチャー」という仕組みを始めたところでしたので、お客さま同士のつながりを支援する仕組みも作り、これも半年で立ち上げています。さらに、商談を管理する仕組みや建物を管理する仕組み作りにも新たに取り組みんでいるところです。これまで本部やフランチャイズの販売会社がそれぞれに情報を管理していましたが、これをフランチャイズ本部としてきちんとした仕組みを作り、グループ全体で情報共有ができるサービスとして提供していこうとしています。
これらをITシステムの導入プロジェクトではなく、ビジネスプロジェクトとして進めています。あくまでビジネスを推進するためであり、今まで手の届かなかった付加価値を作り上げるために取り組んでいます。ですから結果的に、でき上がるシステムが、当初考えていたものと全然違うものになっても構わないと言っています。
私のチームは少数ですので、ITインフラの担当者はいません。とにかく現場に入り、業務の現場と仕様を打ち合わせていきます。基本的にシステム開発は内製にこだわっていませんので、パブリッククラウドであれば、そのパートナー企業の皆さんとも相談しながら、まとめていくやり方をしています。