キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は、独企業LuxFlux(ルックスフルックス)と販売代理店契約を締結し、LuxFlux製「統合ハイパースペクトル画像処理ソフトウェア」を12月上旬から提供すると発表した。
キヤノンITS エンジニアリングソリューション事業部 エンジニアリング技術第二本部 シニアアプリケーションスペシャリストの稲山一幸氏、本部長の原木裕氏、企画部 企画課 課長の福西秀次氏(左から)
同製品を取り扱う背景についてキヤノンITSは「現在、IoTや人工知能を原動力として顧客のニーズに合った製品が短期で開発・出荷されるようになった。一方で、高い品質の要求や生産現場の人手不足に対応するため、工場の自動化や作業の効率化が必要となっている。特に対象物が繊細で緻密な食品加工や半導体製造は、製造ラインにおいて多くの課題を抱えている」と説明する。
同製品は、ハイパースペクトルイメージング(HSI)技術を中心としたデータ処理を行う汎用的な産業用ソフトウェア。機械学習による解析や測定モデルの開発ができ、対象物の可視化や分類、測定を可能にする。従来、HSI技術は対象物の分類を中心に活用されていたが、同製品は薄膜の厚さや、薬・食品など対象物の成分量を測定することもできる。そのため、これまで難しいとされていた半導体、フィルム・素材、FPD(フラットパネルディスプレイ)などの製品検査で活用することが可能となるという。
HSI技術は多波長を利用しているため、従来のRGBカラーカメラで撮影するより多くの情報を取得することができる。シニアアプリケーションスペシャリストの稲山氏は、チーズに工場作業員が使う手袋の素材であるラテックスゴムが混ざっている事例を紹介した(下図)。赤で囲んであるのがラテックスゴム。左のカラーRGB画像では、人間の目で見た場合と同様に違いがあまり分からない。一方、右のHSI画像では、ラテックスゴムだけが赤く表示されている。
(出典:キヤノンITS)
富士経済グループが発表した「2018画像処理システム市場の現状と将来展望」によると、現在日本のハイパースペクトルカメラ市場は大学・研究開発向けが中心だが、産業向け市場は今後年間20%以上の伸びが予測されている。ちなみに同市場のシェアは現在、1社が62%を占めており残りの38%は「その他」と寡占状態だという。
統合ハイパースペクトル画像処理ソフトウェアには、「fluxTrainer」「fluxTrainer Pro」「fluxRuntime」の3種類がある。fluxTrainerはハイパースペクトルカメラが撮像した大量のデータから特徴量(学習データの特徴を数値化したもの)を抽出し、機械学習により学習モデルを生成・検証する開発環境のソフトウェア。fluxTrainer Proは、fluxTrainerにリニアステージの制御機能を付けたもの。fluxRuntimeは、fluxTrainerが生成した学習モデルを基にリアルタイムで対象の判定をする実行環境のソフトウェア。キャリブレーション、対象の位置補正、コントローラー、PLC(Programmable Logic Controller)との連携も可能。生産・検査ラインで得られた結果をチューニングできるため、従来の研究用解析ソフトでは考慮されていなかった生産業務の現場でもスムーズな利用が可能だとしている。
想定価格はfluxTrainerが税別113万円、fluxTrainer Proが同170万円、fluxRuntimeが同128万円。キヤノンITSは、これらの製品群の販売で、2022年に売り上げ1億円を目指している。
販売施策に関しては、全国にわたるSIパートナーと画像専門商社2社を中心に拡販を行う。専門性の高い製品のため、既存のSIパートナーの他、画像ビジネスの専門家など新規のSIパートナーも開拓していくという。
販売代理店契約に至った背景について、本部長の原木氏は「われわれとLuxFluxのどちらかが提案したというより、“お互いに一目惚れ”のような形で締結となった。私が2018年11月にドイツのシュツットガルトで開催された展示会『VISION』を訪れた際に偶然見つけ、われわれのビジネスにとって非常に良い製品だと感じた。それと同時に、LuxFluxも『キヤノンITSと日本で事業を展開したい』と思ってくれた。われわれが1989年から30年間画像処理に取り組んでおり、単なるディストリビューターではなく技術的にも優れているという点を評価してくれたのだと考えている」と述べた。