キヤノンITソリューションズは7月30日、経営方針説明会を開き、3月に代表取締役社長に就任した金澤明氏は、デジタル変革が叫ばれる状況を踏まえ、SI(システムインテグレーション)ビジネスの着実な構造変化を推進していくとの考えを表明した。
キヤノンITソリューションズ 代表取締役社長の金澤明氏
金澤氏は1960年生まれで、宮城県気仙沼市の出身。大学時代は将棋部に所属していたといい、「将棋の駒を一歩一歩進めていく気質がSIer(システムインテグレーター)向きかもしれない」と自身の性格を表現した。新卒で入社したメーカーでは音声認識の研究開発を手掛けていたというが、32歳で同社の前進となる住友金属システム開発に中途入社。主に金融分野向けのシステムを手掛け、2016年からSIサービス事業の統括責任者を務めた。
受託開発を中心とするSIビジネスの先行き不透明が増す中では、ドラスティックなビジネスモデルの変革の必要性が叫ばれる一方、金澤氏が掲げる経営姿勢としては、「プロセスやKPIを重視する経営」「継続的な成長を重視する経営」「社員が実力を発揮できる環境づくり」の3つを挙げる。
金澤氏は、「これまではやり切れていなかったKPIを定めて最後までやり抜く姿勢を実現し、2025年に向けたITサービスによるキヤノンマーケティングジャパン(CMJ)グループとしての売上高の達成に向けて着実に案件を積み重ねていく。ITのビジネスは人材力が全てであり、人材がしっかりと活躍できる場を率先して作る」と述べた。
CMJグループは、2021年を目標年次とする中期経営計画の中で、ITソリューションを中心とした市場拡大の領域において利益ある成長の実現を掲げる。金澤氏は、同社がその中核的な役割を担う立場だとする一方、SI市場で「売上高1000億円規模の当社は準大手の立場」(金澤氏)との現実を踏まえ、「売上高が3000億円を超える大手に近づけていく」とした。
自社の変革目標に向けた基本戦略の方針
金澤氏が目指す今後の同社の姿は、さまざまな社会課題に対してITによる解決を目指す顧客企業のパートナーという。そこでの基本戦略として「顧客満足を超えた感動する価値を提供」「着実に成長する事業構造への転換」「そのための競争力の源泉となる組織改革」を掲げ、SIサービス、ITインフラサービス、エンジニアリングの3つを主力事業に位置付ける。
SIサービスでは、業種ごとの成功事例を業界周辺へ横断的に展開することで収益性を重視する。「金融では銀行に加え、証券やクレジットカードなどに広げる。スクラッチでの開発からベストオブブリードのスタイルに転換していく」とした。ITインフラサービスでは、西東京と沖縄の2つのデータセンターを中核とするサービスでの高付加価値化を図り、ストック型の収益構造に強化する。エンジニアリングでは、キヤノングループの技術をベースとする独自サービスモデルの確立を目指すとし、車載システムなどの高単価商材へのシフトや大手・中堅の企業顧客における直接販売の拡大、人工知能やIoTなどを活用した新たな事業モデルの確立を目指すとした。
全社で注力するビジネステーマでの取り組み
デジタル変革の文脈では、従来のビジネスモデルを大きく変える“破壊者”のような劇的な変化に注目されがちだが、金澤氏は「これまで日本的な心配りやきめ細やかさといった観点で個別要件をたくさん組み込むお客さまニーズへ忠実に応えてきた。多くの企業経営者は足元のビジネスへの対応に精一杯という印象だが、変えなければいけないという決意はしている。そうした中で“ホップ、ステップ、ジャンプ”を通じてデジタルのイノベーションに向かっていくことが重要」と述べた。
金澤氏は、市場の話題を集めるような派手な経営戦略ではなく、SIやITサービス、エンジニアの基幹事業の構造を着実に変えていく地に足を付けた戦略を掲げている。