モバイル通信事業者などの業界団体であるGSMAが、モバイルエコノミーの世界的な現状に関する年次レポートを公開している。当然ながら、その内容の多くは5G関係のトレンドに関するものだった。GSMAも、多くの業界専門家と同じように、2020年は期待ばかりが先行していた5Gが実現する年になると予想している。ただしそれは、4Gから5Gへの切り替えにはメリットがあると顧客を説得できればの話だ。
GSMAが発表した統計によれば、2025年までにモバイル接続の5分の1が5Gに移行するという。これは18億件分の接続に相当するが、同レポートでは、「中心は4Gのまま」だと強調している。現在、世界のモバイル接続の半数以上で4Gが使用されており、この割合は2025年までに56%まで上昇すると予想されている。
消費者の観点から見れば、5Gに切り替えたいと考えるのは必ずしも当たり前のことではないが、5Gに対する見方は国によって大きく異なる。レポートによれば、欧州や日本では、5Gに切り替える予定の顧客は約20%にすぎず、「現時点では4Gに満足しているとみられる」という。一方で中国では、回答者の70%が5Gへの切り替えたいと考えている。
また、多くのユーザーは5Gの実際の潜在能力を知らない。回答者の大多数は、5Gによってデータ通信の速度が改善することを期待しているが、5Gが「革新的な新サービス」を実現できると考えているのは約3分の1にすぎない。
実のところ、通信速度の高速化でメリットを受けるのは、消費者よりもむしろ産業界の方だ。5Gのユースケースの多くは企業向けのものだという議論もよく聞かれるようになった。実際、レポートに示されていた2025年に向けての予想の1つは、「5Gはこれまでのモバイルの歴史の中で、消費者よりも企業に大きな影響を与える最初の技術世代になる」というものだった。
しかし多くの企業は、5Gでなければならない理由を見出せておらず、移行には消極的だ。
レポートでは「大多数の企業は5Gがもたらす速度向上の利点を理解しているが、ほかの利点(ネットワークスライシング、エッジコンピューティング、低遅延のサービスなど)を広く評価する声は少なく、多くは4Gで『十分』だと考えている」と述べている。
高速接続の普及を妨げているのは、一般の人々の認識不足だけではない。GSMAの分析によれば、普及レベル自体にも課題がある。5Gに真価を発揮させるためには、莫大な費用が必要になる。世界の通信事業者は、今後5年間で1兆1000億ドル(約120兆円)の投資を行うと予想されており、その80%が5Gネットワークに対するものだという。