4.互換性と接続性~「新しいデータセンターに持っていったらそのまま使えるんだよね? えっ、OSのバージョンアップが必要だって?!」
さて最後に難どころのお話です。データセンターを移転する際、すべての機器を搬送するということはまずないでしょう。物理搬送中心の場合でも、ネットワーク機器、サーバーラックなどは購入・構築が必要です。
インフラを引越先に事前に構築しておくのが主なら、現在のデータセンターで稼働しているシステム、ソフトウェアが、引越先のデータセンターの機器上で稼働できる必要があります。ここで、インフラとなる機器やソフトウェア同士の接続性(ハイパーバイザ、ストレージ機器、サーバー機器、OSバージョン、ミドルウェア……)が課題になります。
新規に構築する環境では、機器やソフトウェアは当然ながら最新のものが選択肢になります。一方、長期間更新のない既存システムでは、機器やソフトウェアがすでにメーカーの販売期間やサポート期間を終了していることも多いでしょう。
何か一つの機器を新しいものに更新すると考えると、それに連動して接続する機器、そのOS、OS上で稼働するソフトウェアもまた更新が必要になってしまう、というドミノ倒し状態になってしまうことがあります。更新を実行するには、機器またはライセンスの費用、アップグレードの作業費用、それに伴う検証の費用が積みあがり、さらにメンテナンス時間も長くなります。
これについては、万能な解決方法は残念ながらありません。しかし、取りうる選択肢はいくつかあります。
- 新しいインフラを利用するために、アップグレードを受け入れる。ただし、そのための時間とコストを確保し、引っ越しの日程は後ろ倒しにする
- 新しいインフラを利用せず、現在の機器を新データセンターに物理搬送して、「古い機器・ソフトウェアのエリア」を作り継続利用する
- 現在のデータセンターを一部残し、それらのシステムの利用終了や更改を待つ
- それらのシステムを新データセンターのインフラ上で再構築し、データのみをコピーする
どれを選択するかは、システムのライフサイクル、規模、それぞれにかかる費用、所要時間によって異なります。できれば第1回でご紹介した「移転の予備調査」のなかで、システムや機器の棚卸をする際に、こういったケアを要するシステムや機器を確認できるとよいでしょう。
近年は仮想化に伴いシステムのインフラは集約される傾向にあり、またシステムで共通に利用される機能は切り出して構成されることが多いでしょう。パブリッククラウドへ接続するためのネットワーク機器なども複数のシステムから共用されています。このような共通機能を担う機器は停止の影響範囲が広い為、一般には搬送が難しくなります。移転や切替を進めるうえでの検討ポイントになります。